会社はだれのもの?!短期利益ではなくパーパスに資する「スチュワード・オーナーシップ」の実践をヨーロッパからきく【対談記事 後編】
本記事は、2024年3月19日に開催された「Governance for Impact インタビューシリーズ / Zebras Cafe 特別編 〜 会社はだれのもの?!短期利益ではなくパーパスに資する「スチュワード・オーナーシップ」の実践をヨーロッパからきく」について、スピーカーの英語での発表を日本語にしてまとめたものです。(記事:野崎安澄、山本未生)
記事の前編はこちらをご覧ください。
英語でのイベントについては、こちらの動画をご覧ください。
スピーカー
ステファン・シェンク (Stephan Schenk)
Founder, Stapelstein®
ステファン・シェンクはStapelstein®の発明家、創設者、経営者。Stapelstein®は、動きのある生活環境を創造することで、子どもたちと彼らの周りの人々の未来を創造している。2022年、Stapelstein®はパーパス財団の支援を受け、スチュワード・オーナーシップ企業に移行した。
子どもたちのために遊び心のある運動を
Stapelstein®はドイツのシュトゥットガルトに拠点を置く玩具会社で、すべての製品をドイツ国内でできるだけ持続可能な形で生産しています。
Stapelstein®は子どもにやさしい未来を築くために存在しています。私たちは真に目的志向で、このビジョンは、ブランドと会社がより良い変化を起こすために存在し、子どもたちの世界をより良く変えようとしていることを表しています。
私は、大学時代デザイン専攻で、子どもにやさしい未来を築くためには何が大事かを研究していました。その中で、運動は、呼吸や水分、睡眠などと同じように人間の基本的なニーズであるにもかかわらず、子どもたちの日常生活の中で足りていないことに気づきました。
難しいのは、運動が足りていないことを認識するには時間がかかるということです。呼吸をしなければ、すぐに気づきます。水を飲まなければ、寝ていなければ、1日や2日で気づくでしょう。実際、80%の子供たちは、世界保健機関(WHO)が推奨している最低限度の運動時間に達していません。
子どもたちの運動不足への解決策として、まず、日常生活に遊びを増やすことを創造することから始めました。というのも、遊びもまた、子どもたちにとって必要不可欠な基本的欲求だからです。子どもたちは遊びを通じて世界を発見し、小さな変化を起こし、次の成長につながっていくのです。
そこで、運動と遊びを結びつけ、遊び心のあるアクティビティ、に行き着いたのです。私たちの使命は遊びながら動ける、全体的な発達のための空間を子どもたちに提供することです。
学生時代の夢を叶えた製品開発、しかし訪れた壁
(写真: Stapelstein®ウェブサイトより)
こうして学生時代に考えた、カラフルなレンガのようなこのおもちゃのアイデアが、エンジェル投資家2人の目に留まり、2016年に共同創業者ハンナと会社を設立し、製品開発に乗り出しました。
2018年には研究を終え、製品化に成功しました。2019年、最初の利益を得たとき、より大きなインパクトを生み出すために再投資をしたいと考えるのは自然な流れでした。
しかし、投資家たちは「いや、再投資はできない。最初の利益が欲しい」と言ったのです。彼らは利益の分配を要求し、会社への再投資には消極的な姿勢を示しました。
当時議決権は、私と2名の投資家で3分の1ずつ持っており、共同創業者のハンナは議決権を持っておらず、重要な決定をするには、普段会社にいない投資家たちの賛成が必要でした。
そのとき私は、私たちの会社のDNAの何かが間違っていることに気づきました。子どもたちの自由な遊びをサポートするという理念を掲げていたのに、皮肉にも、私たち自身が資本主義の論理に縛られ、自由を奪われていたのです。
会社のガバナンス構造に問題があると感じ、従来の株式会社から「パーパス」志向の会社への移行するために、3年以上戦いました。ですが、私には十分な議決権がなかったため、法的構造を変えることもできませんでした。
この状況から抜け出す唯一の方法が、パーパス財団の協力と支援でした。財団は、投資家に別れを告げるために、法的支援と資金を提供してくれました。それを通じて、投資家2名から株を買収しました。
投資家が悪者というわけではなく、経済において非常に重要であり、素晴らしい知識を持っています。
重要なのは投資家の質であり、投資家の意思だと思います。
もし私が、今後別会社を設立するとしたら、まず投資家の意図を理解するように努めるでしょう。そして契約面では、あらゆるケースを明確にカバーできるようにします。
パーパスを持ち、自分たちの仕事に最大限集中をすることで明るい未来を創り出す
パーパス財団との出会いは、私にとって大きな転機となりました。彼らはオルタナティブなガバナンス構造や、目的志向の経済の重要性について共有してくれました。
私は、より良い世界と持続可能な未来を創造するためには、企業のパーパスが重要であり、目的志向の経済が必要だと強く信じています。
私たちは、子どもに優しい未来を創造するために、「子供だまし」ではない、子どもにやさしい製品を作ることで、子どもたちの成長に貢献する最先端のファミリー向け商品を開発・販売することで、業界を牽引しています。ドイツと中央ヨーロッパに存在する玩具業界で最も成功した新興企業と呼べるでしょう。
主力商品であるエレメントは、ヨーロッパで大きな人気を博しており、200万個以上販売されています。また、60カ国以上で販売されており、昨年の売上高は約1600万ユーロに達しました。
私たちはパーパスを持ち、自分たちの仕事に最大限の集中をすることで、明るい未来を創り出しています。従業員は約30名で、目的のある会社で働けることにとても満足しています。彼らと話をするのは意思決定者であり、会社を売却するような投資家が後ろにいるわけではないからです。
営利目的ではなく、ある問題に対する解決策を世に送り出す手段として、会社を設立したのです。私たちにとっては、それを実現する唯一の方法はパーパスなのです。
質疑応答
山本:
スチュワード・オーナーはどうやって決めるのですか?
アニカ:
スチュワード・オーナーになるのは創設者、あるいは、その役割を引き受ける人たちで1~2名です。特に会社のことをよく知っている社内出身者が選ばれることが多いです。
ステファン:
スチュワード・オーナーになることを望む社員はあまりおらず、スチュワード・オーナーや投資家が持っている議決権は最上位の議決権に過ぎず、他の意思決定はチーム全体で行われます。スチュワード・オーナーになるには、通常は数年間その会社に在籍し、理解と信頼を築くことが重要です。
山本:
英治出版がスチュワード・オーナーシップをどう取り入れたか、黄金株(ゴールデン・シェア)という仕組みについても教えてください。
田淵:
英治出版の事例は、黄金株を活用した、おそらく日本で最初の取引の一つでしょう。
英治出版の創業者が次世代への継承を考え始め、新しい経営者と株主を見つける必要がありました。この会社は約30年続いており、全員が意思決定に参加するという組織文化と「Publishing for Change “みんなのものにする”ことを通して人・組織・社会の未来づくりを応援する。」というパーパスを持っています。
そこに、カヤックという上場企業が、パーパスと組織文化を維持しながらM&Aを行うこととなりました。黄金株という拒否権をもつ株を発行し、それを英治出版の従業員が保有して意思決定をする非営利団体「英治出版をつなぐ会」が所有します。残りの株式はカヤックに売却されました。このようにして、黄金株を非営利団体が持つことで、会社の目的変更には英治出版の全従業員の同意が必要としたのです。
英治出版の事例でユニークなのは、オーナーの利益を守るためではなく、会社の目的を守るために黄金株が使われている点です。
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この後も参加者も交えた質疑応答で盛り上がりました。
英治出版の黄金株を活用した事業承継のお話は、Zebras & Companyのこちらの記事をぜひご覧ください。
また、本イベントを参加者視点からまとめてくださった大森雄貴さんのnote記事もどうぞ。
本イベントの後、スチュワード・オーナーシップに関する勉強会も開催しました。
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