World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。
その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。本記事はその対談の要約です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。(本記事・動画ともに、Q&Aは含んでおりません)

 

第6弾は、「子どもを望むすべての人に、納得できる選択を」を掲げ、不妊治療と仕事の両立支援を行うNPO法人フォレシア 代表理事 佐藤 高輝さんにお話を伺いました。

聴き手:山本 未生、記事:篠 恵理

不妊治療の経験からフォレシア立ち上げを決意

フォレシアを立ち上げようと思ったきっかけは私自身の経験からです。27歳で検査を受けた時に自然妊娠が難しいことを伝えられ、頭が真っ白になりました。その後不妊治療を進め、2年後に体外受精でなんとか妊娠しましたが死産を経験します。
この時は治療で疲弊していたため夫婦で少し休みをとることにし、治療をやめるか続けるか考えました。養子縁組や、二人で生きていくという選択も考えましたが、残っていた凍結受精卵を使ってとりあえず最後までがんばってみようと治療を再開し、ようやく第一子が誕生しました。

この経験を通じて、不妊治療において男性よりも女性の負担が大きいことを実感しました。当時の日本は不妊治療への取り組みがほとんどない状態。もし娘が大きくなった時に、今のままの両立が難しい社会、治療の理解が少ない社会では苦労することになるのでは、こういった思いがフォレシアを立ち上げようと決めたきっかけです。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

フォレシアでは、「子どもを望むすべての方に、納得できる選択を」というビジョンを持っています。子供を授かってからの支援は、男性育休など社会の中でまだ足りない部分もあるものの、一般化しつつあります。一方で、子どもが欲しいという段階の支援はまだまだ少なく、声も届きづらいです。こういった支援の選択の幅が少ないために悩んでしまい、納得ができないまま時間だけが過ぎてしまうということがあります。子どもが欲しいと思った時に自分が納得できる選択をしてほしい、それをサポートできるような社会をつくっていきたいと考えています。

フォレシアでは、今を支える「当事者負担の軽減」と未来を変える「不妊症の高度化、長期化予防」の2つの軸で事業を進めています。今を支える軸では、仕事の両立負担、通院負担の軽減などをサポートしています。未来を変える軸では、今まで活動してきた中で「もっと早く知りたかった」という声をよく聞きます。不妊治療者へのサービスは増えてはいますが、私たちはそもそもの不妊症で悩む方達をできるだけ減らしていきたい、不妊症予防のサポートをしたいと考えています。

 

体外受精件数トップクラスの日本、世界との比較

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

世界と比べた時の日本の不妊治療の実情についてお話します。
日本では4.4組に1組が不妊治療をしているというデータがあり、体外受精の実施件数ではグラフ(2011年実施)にあるように日本はトップクラスとなっています。

そしてこの数は、現在2倍になっています。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

また日本では14人に1人が体外受精で誕生していますが、体外受精による出産率は他国と比べると驚くほど低いという結果が出ています。

高い医療技術を持っているにも関わらず、体外受精による出産率が低い理由として、日本では不妊症になかなか自分が気づかないまま年齢が上がってしまうことがあります。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

性教育で生殖について学ぶことが日本では極端に低いため、不妊症など殆ど知らないまま大人になります。

以前から月経痛があったとしても薬を飲んで我慢しているなど、子宮内膜症を放っておいてしまった結果不妊症になってしまうケースもあります。
また生理休暇が職場にあってもほとんど使われないなど、生殖に関する知識やサポートがないことで、年齢が上がって体外受精するケースが多く、これが体外受精による出産率が低い原因の一つとされています。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

実際、体外受精をしている数のグラフでは日本では39歳がピークとなっています。一方でアメリカではこのピークは34歳です。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

35歳を過ぎると流産率が1年ごとに上がっていきます。このため、この5歳の差というのは非常に重要であるにも関わらず、日本ではこういった知識もサポートも広まっていません。

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

体外受精における採卵時の年齢分布図では、65か国中日本だけが、年齢が上がると共に右肩上がりに採卵件数が増えています。そして40歳以上の採卵件数に関しては、日本が43%と突出していることがわかります。

 

「もっと早く知りたかった」をなくすために

このようなデータからも、生殖に関する正しい知識を早期に届けていきたい、何かあった場合にすぐに婦人科への受診ができる仕組みを作りたいと考えています。

教育的なアプローチとしては、フォレシアでは秋田大学と共同で不妊症に関する研究事業をしている他、プレコンセプションケアとして産婦人科医と連携しながら学校で授業を行っています。

20歳くらいの学生の方に不妊症、月経困難症、ピルなどの話をする機会がありますが、知識のない方が多く見られます。これをきっかけに婦人科に行ってみよう、親と話をしてみようと行動を起こすきっかけに繋がればと考えています。

 

不妊治療と仕事の両立に向けて

(フォレシアプレゼン資料より抜粋)

 

一方で不妊治療と仕事の両立という観点では、4人に1人が両立できずに離職するという現状があります。特に問題なのは、不妊治療のことを職場に伝えていない人が6割と多く、治療が原因であることを伝えずに離職するケースが約半分いるということです。

すなわち企業側は離職の背景に不妊治療があることにそもそも気づいていないというケースが多いのです。このため課題として考えられることもなく、取り組みもなされていないということが多くあります。

このような不妊治療に対して関心があまりない企業に対してどのように情報を届けていくか、ということも一つの課題と考えています。

不妊治療に関しては「伝えたいけど、伝えにくい人」と「伝えることはできるけど、伝えたくない人」の両者が必ずいます。企業の取り組みとして何でも話せる環境を作っていこうという取り組みも素晴らしいですが、不妊治療であることを伝えなくても支えられるような環境整備も必要と考えています。このため企業側には、多目的休暇やライフサポート休暇といった不妊治療に限定しない休暇制度を作るなど働きかけています。

また時短休暇に関しても、育児に関する子供の発熱時などは会社も理解が進んできており休暇が取りやすくなってきてはいるものの、不妊治療となるとなかなか休暇に対する理解が進んでいません。

会社においては理由は異なれど急な欠員という事象は変わりません。それにも関わらず、不妊治療における欠員には対処できないのはおかしいのではないか、そういった話もしながら制度を企業の方々と一緒に作るお手伝いをしています。

フォレシアでは、課題の顕在化のための社内アンケートの代行、休暇制度の設置支援、社内研修、オンライン相談窓口や不妊治療との両立に取り組まれている企業の採用支援等を提供しています。

また地域によって不妊治療ができる病院というのは非常に限られており、秋田県だと3つ、岩手県だと2つしかありません。このため通院に時間がかかるケースが多いのですが、そういった点も企業が考慮した制度作りを支援しています。

 

今後に向けて

今後さらに取り組みたい分野は包括的性教育の拡大です。全国の学生の方に、大学や専門学校だけではなく、小中高も含めて活用いただけるリソースを拡充させていきたいと考えています。

この分野は学校教育の中では教えにくい分野でもあるので、外部から教えるような仕組み作りが必要と考えています。

また、不妊治療と仕事の両立に関しては、企業側は課題として感じずに優先順位が低かったり、両立をサポートする余力がないこともあります。そのような状況でも、相談窓口を置いてもらうだけでも「悩んだ時に相談できる相手がいる」というメッセージになりますので、今後も取り組み続けていきます。

 

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