World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を行っています。

第8回は、日本に逃れた難民と未来を築く、NPO法人WELgeeの渡部カンコロンゴ清花さん(代表理事)にお話を伺いました。

本記事は対談のまとめ記事です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。
(聴き手:三代祐子、議事メモ:小沼瑠美、記事:本多百音)

「難民」にすらなれない。最後の希望のはずが、日本にもいられない現状

今、世界では1億人以上が故郷を追われています。日本にも、難民・難民申請者・避難民が2万人以上います。日本の難民認定はかなり厳しく、2021年74人、2022年に202人とかなり少なく、日本にいる「難民」の中で圧倒的に人数が多いのが、難民認定のための申請をしたが結果を待ち続けている難民認定申請者です。彼らの多くが、既に日本にいるのに、安定的な法的地位がなく、経済的・社会的にも宙ぶらりんな状態です。

日本に来る難民申請者の99%は飛行機に乗って来るのですが、来日後すぐに不法滞在や不法就労状態になるわけではなく、難民認定申請の結果を待つ間、「特定活動」という在留資格を更新しながら待ちます。収容されたり、就労許可がなくなったり、在留資格がなくなったりするのではないか、という恐怖を抱きながら、生きており、彼らにとって最後の希望だったはずの行先・日本が、人生の再建の場にならないという現状があります。

日本での難民認定申請者の現状

(WELgeeプレゼン資料より抜粋)

 

ユニークな人材の宝庫「難民」で組織が変わる

ところが、東京で私たちが出会ってきた難民の若者たちは、非常に魅力的・優秀で、元々祖国で色々学び経験してきた同世代だったのです。彼らの多様な持ち味を活かしていこうとWELgeeが始まりました。

「難民」という人間はいないと思うのです。このカテゴリーは法的には必要ですが、助けられるべき、保護されるべき難民という側面だけを見ていても、何も新しいことは始まらないと思い、私たちは、難民申請者を主な対象とした就職プログラムを行っています。

難民としてひたすら待ち続けるのではなく、人材として活躍できる道をつくれれば、彼らが専門性を生かした就職を通して、安心して日本で働き暮らせるビザを獲得できるのでは、という仮説を2016年に立てました。

そこから紆余曲折や仮説検証を繰り返しながら、これが可能だということを法的に実証できてきたのが現状です。ここからいよいよプログラムをスケール化していきたいという段階にいます。

「難民が働けてよかったね」だけのプログラムになってしまうと、企業にとっての長期的価値創出につながりにくくなります。難民の人たちがチームに入り、「人材」として活躍することを通じて、企業側も成長・変容していくというストーリーが生まれています。

プログラムの社会的インパクト

(WELgeeプレゼン資料より抜粋)

 

WELgeeの事業

難民申請者が1人で就活してもあらゆる壁にぶつかるため、日本の企業シーンで活躍できるまで徹底伴走していこうというのが、WELgeeのキャリアプログラムです。キャリア・コーディネーターが彼らにも企業側にも伴走していきます。

日本の企業シーンで活躍できるまで徹底伴走

(WELgeeプレゼン資料より抜粋)

 

これまで、スキルを生かした就労実績は22件、ベンチャーから大企業まで、色々な業種職種で活躍しています。在留資格変更は8件あり、これは非常に重要で、「難民」や「難民認定者」がもつ在留資格ではなく、「企業で働く人材」としての在留資格を得られたということです。もはや難民ではない存在として生きていけるようになった人が、少しずつ増えてきています。

スキルを活かした就労活躍実績

(WELgeeプレゼン資料より抜粋)

 

WELgeeのキャリアプログラムに登録している難民人材は380人を超えました。丁寧に長期伴走していく中で、難民申請中の不安定な在留資格しかなかった人が、企業・民間セクターが信頼の担保になることで、ホワイトカラーの就労の在留資格を取れる、意欲あふれる外国人社員として活躍できることを目指しています。

WELgeeに登録する難民人材

(WELgeeプレゼン資料より抜粋)

 

企業の方と一緒に踏み出そう

日本でも民間企業としてできることがあるということが、実証され始めています。「難民の人はうちの会社にはどうだろう」、「あの人が興味を持つかもしれない」などあれば、ぜひお声がけください。現在約380人登録しているので、この人は、という人と一緒に踏み出せるといいと思っています。

参考:「難民人材の採用(JobCopass)について

 

Q&A

 

- 日本に来る難民の方の特徴はありますか?

日本にたどり着くには海を越えてこなくてはならないので、着の身着のまま歩いて隣の国に来るのとは少し違う属性の人が来ます。大学生だったり働いていたが、言論の自由がない国で、民主化運動に加わったら政府から弾圧され、多くの若者が殺され、親戚や友達にお金を借りて出国した人。紛争がひどくなったため、稼ぎを全部つぎ込んでチケットを買って国を出た人なども多いです。

「難民キャンプで生まれ育った子どもたちなのか?」、「英語を話せるのか」、「学校に行ったことがあるのか?」という質問は、最近は減りましたが、会社で一緒に働く同僚になるというイメージには浮かばないと思います。

ただこうした背景から、難民には、逆境を乗り越え、自分の頭で考えてアクションを起こしながら、国を出て人生をつないでいく、という人たちが多いです。

 

- 日本では難民の方が日々生きていく際に、どういう難しさがありますか?

難民認定されないまま、日本で数年間ずっと待ち続け、ワーキングプアに陥っていき、自国では危険な目にあい、体は生きているが心は死んでいく、という方もいます。カナダやドイツに逃げた仲間はとっくに認定されて家族を呼び寄せているのに対し、「なぜ自分は日本に来てしまったんだろうか」、「ここでもう一度頑張れるはずだったのに」、「ここまで英語が通じない国だと思っていなかった」と。彼らは日本語も学ぼうとしているのですが、やはり日本語が話せない外国人となると、いきなりシャッターが下りる、そういう難しさにだんだん気づいていく方も多いです。

 

- 難民認定が下りない場合どういう壁があるのでしょうか?

難民だから直面する壁と、外国人として直面する壁が異なる場合があります。
難民だからの壁は、就活の際に、不法就労を防ぐために人事部が在留カードを確認するのですが、そこに「特定活動」と書いてあります。法的に就労可能な場合でも、「実は難民申請中で」と話すと、そんなよくわからない人を採るリスクより留学生を無難に採ろう、となってしまう。自分のスキルやキャリアとは関係ないバイトなら沢山あるのですが、数年越しのキャリアパスを見越して、自分の生き方、働き方を考えて就活していくと壁にあたる場合も多いです。

携帯や家を借りるなどの際には、外国人として直面する壁がありますね。留学生でも家を借りるの難しいですし、私は名前がカンコロンゴなんですけど、家を探す時に不動産屋への問合せフォームで、「渡部カンコロンゴ清花」で問い合わせると、返事が返ってこないときが結構あります。私は日本国籍なのですが、外国人だと思われるわけです。「渡部清花」で問い合わせると一瞬で返事が返ってきます。

名前にカタカナが入っているだけでまだハードルがある国だとしたら、難民問題だけではなく、異なる人たちとどう生きていくのかを日本の構成員である人たちと一緒に考えていく必要があると思います。

 
- 在留資格を変更された8名の方が、企業で働き在留資格を変更するまでのプロセスはどういうものですか?

正規雇用を見越して中長期的な就労を前提に、難民人材と企業の引き合わせをし、その後在留資格を切り替えていきます。お試し雇用やインターンも挟みながら、就職するところまでは難民請中「特定活動」という在留資格です。これは、就労はできるが、6ヶ月毎に更新が必要で、家族を呼び寄せできない、海外出張に行けないなど、ビジネスパーソンとして生きていくには難しいビザです。在留資格の変更には様々な条件があるのですが、満たしている方には書き換えを行います。在留資格が変更できれば、もし難民認定申請が不認定になったとしても、それが原因で就労許可を失うことはありません。

 
- 世界的にみて日本のハードルやチャレンジはどの辺りにありますか?

国として向き合うべき喫緊の課題と認識されたことには、リソースや予算が投入されます。その優先順位でいうと、難民問題は非常に低いです。大事な問題ではないから低いのではなく、数が少ないというのはあると思います。国が混乱に陥るほど、難民も移民も来てないから優先順位が低いという観点です。

ただ、難病などについても、数が少ないから政策的優先順位が低いとはならない。難民については、当事者が有権者ではなく、政治に直接コミットする手段を持っていません。当事者に届ける声がないイシューは優先順位が下がることを繰り返し、次世代に積み残されていきます。このペースの遅さでは数年先も同じ話だと思うので、WELgeeとしては、まずは民間から良い事例をたくさん作り、理想論だけではなくてそれがワークする、という共通理解をより多くの産業界の人たち共有していきたいと考えています。そして、作った事例をもとに、次のステージには政策提言ができるといいと思っています。

 
- ウクライナ情勢によって、日本の動きに変化はあるのでしょうか?

ウクライナからの難民を受け入れるということで、日本も「やればできる」ことが、ちゃんと見えてきたということが大きいと思います。

日本は難民認定の手続き上の課題が沢山あるとずっと言われてきたが、日本も首相がウクライナ避難民を受け入れる声明を出して、手続きで特例措置があんなに出せることがわかったのです。たどり着く前からビザを発給できる、特例の在留資格をパッと出せる、コロナの国境規制についても特例が出せる、都営住宅は無償にする、日本語学校がウクライナの方を受け入れ、自治体の窓口がウクライナ避難民対応のために設置されたりなどです。政治的な意思がちゃんと社会に共有されたときに、やろうと思えばできることは沢山あるということを経験したと思います。

 
- 難民の方がWELgeeと一緒に過ごす数年間はどういう時間なのでしょうか?

皆さん「WELgeeファミリー」と言ってくれます。「社会と何を通してつながっていけばわからない」という状況で、WELgeeで心を許して「この人を通してこの社会を知ろう」という人間関係ができるので、プログラムを卒業して就労していった後も、自分の経験を後輩に話したり、人生の節目で出来事をコーディネーターやスタッフにシェアしてくれたり、という関係性が続いています。

 
- 国家と人の関係がこれからどんなふうになったらいいと思いますか?

20代前半の私にとって、「国家が守らない人たちはどうなるんだろう」という問いは壮大な問いでした。

私たちは色々な所属を持っていますが、そこになじめないなどの理由から、所属しないことを選択したり所属できなくなることは普段もあります。学校に行かないって選択をする人もいるし、生まれ育った家が正解なわけではない。

ただ、その最たるものが、国民国家制度で、普段は空気のような存在なのですが、所属できなくなると足場がなくなるのです。所属できなくなると、世界中どこにも、自分の法的なステータスがなくなり、それを再度得るということは中々できない。

ですので、WELgeeがやっていることは、ソリューションの1つでしかないですが、「自分の力で、自分が願ったとき、良い人や良い企業と繫がったときに、自分が所属していると感じられる、活躍できる土台」を、国の決定だけに頼らない形でつくれるということなのです。、国家権力を前にしたときに個人はあまりにも小さい存在です。、特に紛争国や強すぎる国家において、何もできることがないような状態に陥ったとしても、それでも選択肢があると思える一つの希望になっていたい。

そうすれば、10年前、「国家が守らない人って、もう人生が終わりなのかな」と思っていた自分に対して、「いや、そうじゃない方法があるかもしれないから、あと10年ぐらいクリエイティブに考えようよ」ともう1回言えるかなと。そして色々な人がそこにジョインしてくれる形で仮説検証していく、そんな感覚です。

 

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