◆Governance for Impactインタビューシリーズ

ボード&ガバナンスの事例や知見の蓄積・発信を通じて、社会的ミッションを持つ組織のGovernance for Impactの実践と探求に寄与したいと願い、対談インタビューや研究をはじめました。

※Governance for Impact:多様な人々がその視点やリソースを、組織の意思決定やミッション実現に活かし、社会的価値を創出するガバナンス

第1回目のゲストは、『ティール組織』『すべては1人から始まるービッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』の翻訳出版メンバーであり、様々な組織開発に携わりながら、組織や社会の進化を探究されている嘉村 賢州さん。

賢州さんご自身の関わる組織におけるガバナンスを始め、ティール組織におけるガバナンス、またガバナンスにおけるソースの役割についてなど、さまざまな角度からお話を伺いました。

本記事は対談のまとめ記事です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。
(聴き手:山本 未生、記事:野崎 安澄)

自由で、ルールも階層構造もない組織 ≠ “ティール組織”

- ティール組織・ソース原理というキーワードと”ガバナンス”をかけ合わせた時に浮かんでくるトピック、問題意識などを、まずざっくばらんにお伺いできればと思います。

もともと僕の中のイメージとして「ガバナンス」はあまり良くないというとか、そもそも必要なのか、というところが正直な感想でした。

ただ今回『非営利組織のガバナンス』(リチャード・P・チェイトら著、山本未生/現World in You訳、英治出版、2020年)を読み返してみて、今までのイメージとは違う役割を担っていくんですという内容で、腑に落ちた感じがありました。

僕個人としてもNPOを15年経営していますし、NPO立ち上げの相談などを受けた時に、ボードメンバーの選定についてもよく相談を受けます。その時はよく「(ボードメンバーは)軽くしておいた方がいいですよ」って言っていました。

ボードに色々なメンバーを揃えておくと信頼性が高まるという意見もありますが、重々しい調整のプロセスがあると、組織として本当に勢いをつけたい時に勢いづけられないんじゃないか、と思っていて。

一方、島根県隠岐島にある「風と土と」という出版社のように、役員メンバーと数回合宿してとことん話し、豊かな知恵と力を借りながら組織を進めているという事例もあります。ボードメンバーの豊かなネットワークを活用していくという観点もありますが、僕個人としては軽くしておいた方が良いというスタンスです。

今日このテーマでダイアログするのが楽しみです。

 

- ありがとうございます。ガバナンスと関連して、ティール組織の意思決定がどのように行われるのかという点をお伺いしたいです。

よくある誤解が、自由でルールも階層構造もない組織がティール組織だというものです。もちろん意思決定のルールは従来型の組織とは大きく異なります。

出版元:『自主経営組織のはじめ方』⑤ 第7章コラム:グリーン組織の罠を越えて(嘉村 賢州)

オレンジ型組織とティール型組織の違いでまず説明しますが、オレンジ型は専門性で細分化かされた組織構造で分業が基本なんですね。

経営の戦略・ビジョンを練るのは経営の仕事。採用は採用部門の仕事というような形で、間接部門が大きくなっていきます。現場の代わりに大きな方向性・戦略・リソースに関しては経営層が考える、現場の代わりに間接部門が事務仕事などを担うというのがオレンジ型組織の発明です。

専門分化にすることによって専門性が高まっていくので価値や意味はありますが、 現場からすると、日々いろんな人と調整しないといけなかったり、お客さんや社会に接点がある自分達の意見が経営判断に反映されない、「経営層は現場が見えていない」という対立構造が起きがちです。

 

上からの管理ではなく、現場が意思決定と責任・権限を持ち、幅広い視野を持つ人たちを巻き込んで仕事をする

一方ティール型組織の考え方は、基本的に意思決定レベルは現場が持っているという発想なんです。現場の代わりに経営層・間接部門が何かをするのではなく「一緒にする」という考え方です。

現場は「助言プロセス」という最終的には自ら意思決定できるプロセスをうまく活用しながら進めていくので、誰か上の人に承認を得るプロセスがほぼなくなります。

*助言プロセスについてはこちら>>『自主経営組織のはじめ方』⑥ 第8章コラム:ティール組織における意思決定プロセス(吉原 史郎)

ただ、この意思決定プロセスの構造は、課長・部長などの役職を全部なくしてしまって、全て平等にして好き勝手して良いということを意味してはいません。組織の中には、幅広い視野を持っている役割と、現場で専門性を活かす役割があって当然です。

サッカーの例えで言うなら、子どもたちのサッカーでは全員がボールに集まってしまって試合がうまく進みません。一方プロのサッカーではさまざまな役割・フォーメーションがあることで創造的な試合ができる。

幅広い視野を持った仕事を維持しながらも、現場の仕事が進んでいくためには、いくつかの方法があります。

当然、幅広い視野を持つ役割のAさんと言う人を置く場合もありますし、あるいは仕事時間の2割は幅広い視野の仕事をタスクフォースを組んでしていくと言う方法もあります。

一方ティール型組織では、幅広い視野を持った役割に命令権限と責任を背負わせることは基本しません。それがあることで現場をコントロールしようとしたり、その結果として現場が考えなくなるという現象が起きてくる。

基本的に責任と権限は現場が持っています。旧役員層や部長の役割は、心強い社内コンサルタント的位置付けに変化していきます。

今までの組織では「管理する」側として上の階層の人たちが緊張感を持っていたのですが、現場が意思決定と責任・権限を持つことで、幅広い視野を持ってる専門性を持った人たちを巻き込んで仕事した方がより良い仕事ができると意識が変わることで、組織内の関係性が変わってきます。

 

「どんな世界を作りたいのか」を考えるプロセスに、自分達が入ることが大事なポイント

- ガバナンスといった時に、理事会・取締役会などが一般的に想定される機関になりますが、本来ガバナンスはもっと広い意味を指すんですね。どうやって意思決定をするか、みんなで進めていく方法をどう担保するかと言うことが、ガバナンスのポイントなので、逆にティール組織のように現場が緊張と権限を持って進めていくことが素敵だなと思っています。

そういうレパートリーを私たちが知っていき、その中から選択していくことが大事ですティール組織のような形態のガバナンスを実践する時、現場の人たちが「助言プロセス」の有効性を感じたり、実感値が湧いたりするのには、どれくらいの期間やコツが必要だったりするのでしょう?

半年から1年、数年のうちにはできるようになってくると思います。

今までのオレンジ型組織においては、「組織の理想状態を描く」「モニタリングする」「フィードバックする」と言う機能が上層部の役割でした。

そのプロセスを民主化しようと言うのがティール型組織の動きなので、まず「私たちにとっての1番良い仕事とは何だろう」「どんな世界を作りたいのか」と言うことを考えるプロセスに、自分達が入ることが大事なポイントになります。

自分たちが実現したいことに向かって良い仕事ができているのかいないのか、それをどうやったら測ることができるんだろうということを、自分たちで考えていく必要があります。

体温計みたいなものですよね。どういう項目をどのように測れば、自分たちは良い仕事をしていると言えるんだろうという、モニタリングの物差しや方法を、現場が考え出す。そしてできてない時には、フィードバックし合うという機能を、全部現場が持つようにする。

そのためには自分たちで理想状態を描ける対話の場があって、モニタリングの項目や方法、フィードバックの方法も決めていくというプロセスを、丁寧に半年から1年かけて行えば、可能だと思います。

 

動き始める前からミスをゼロにしようとするマインドセットよりも、性善説にもとづいた設計でレジリエンスを向上

- 既存のボードが持っている「リスク管理する」「コントロールする」ことに重きをおくマインドセットはどのようにしたら手放していけると思いますか

リスク管理は絶対必要ではあるのですが、問わないといけないのが、本当に全てリスク管理をしないといけないのかという点ではないかと思います。リスクにも重たいものと軽いものがあるはずで、 事前に計画を練って、本当におさえておかないといけないリスクは事前に手を打っておく。未然に防ぐリスクと動き始めた後に兆候を察知して変更するっていうパターンもあると思うんですね。

今の日本のガバナンスでは、動き始める前からミスをゼロにするというようなマインドセットがあり、完全にリスクをおさえるために、計画と官僚的なプロセスをデザインしすぎているのではないかと思います。

そうすることによって、チャンスも掴めなくなっている。

例えば、計画が分厚すぎるというのもあるかもしれないし、 何か物を借りたりとか、予算を作る時に、何回も判コを押さないといけないってことかもしれない。

こういった方法は組織にとってマイナスとなる不正は防げるかもしれませんが、その仕組みがチャンスに素早く飛び乗る俊敏さを壊す要因にもなり得ます。これは「チャンスだ!」という風に掴んでお金を投資して動くために3ヶ月かかったというのでは、もしかしたらその間にチャンスを逃しているかもしれません

そう考えた時に、未然に防ぐべきリスクとはなんであるかということを問うこと。

多少リスクはあるけれど、起こってから挽回するのでも全然いいよねという場合は、過剰に構造プロセスやルールを作るよりも、 早期発見できる仕組みを作っておくことで、危機もチャンスも掴みやすくなるのではないかと思います。

できるだけ性善説に基づいて、最低限のルールやプロセスにする方がレジリエンスが強くなります。

全部いきなりティール的にしてしまうというよりも、本当に防ぐべきリスクはなんなのかを切り分けて、できるだけルールやプロセスを少なくするというところから始めるのが良いと思います。

Risk Management Vectors by Vecteezy

- なるほど。「どんなリスクも防ぐべき」というところで思考停止になっているところから、まず表現して、自分たちで意識していくことが大事ですね。

そうです。そうしないと理事がリスクチェックをするために重箱のすみを突くようになり、 現場からすると”現場を見ていないのに”というような不満が出てきますよね。自分たちの手元に上がってくる書類の中でリスクを判断するよりも、もっと現場の責任感を高めて、現場レベルで調整し合うような仕組みを作った方が、本当はリスクヘッジになるんですよね。

フレデリック(TEAL組織著者)が「リスクチェックしているようで、リスクチェックしているような気になっている理事会プロセス」という皮肉を言っていました。

 

助言プロセスは承認プロセスではなくて、集合知を使えるプロセス

- うまく行っているティール組織の中で、ボードはどのような価値を発揮しているのでしょう?

命令権限と責任はできるだけボードメンバーが負わず、現場が持っている。そして、現場はボードメンバーを使う権利がありますよという形になっています。

助言プロセスは承認プロセスではなくて、集合知を使えるプロセスであるという認識です。
1人で考えるよりもいろいろな頭を使った方が良いものが提供できる。頼れるボードメンバーという形で残しているケースが多いですね。

同時にボードメンバーの話を密室でするのではなく、できるだけ忙しい中立ち止まって、組織の今を分析したり、未来を展望したり、自分たちの価値はなんなのかと問うたり、そういうプロセスをオープンにダイアログする場所としてボードを使ったりしています。

- ありがとうございます。自分の組織にとってのボードもそうしたいなと感じました。

 

民主的という考えの中でリーダーの存在がおろそかにされる場合がある

- 「ソース原理」におけるボード、ガバナンスの役割についても聞かせてください。

ティール組織の分類で言うと、オレンジ⇨グリーン⇨ティールという段階があるのですが、特に非営利セクターが起こってることとして、 ”グリーンの罠”と呼ばれるものにはまってるというケースがあります。

オレンジの組織では、トップや上下関係が明確になっていて、リーダーや上層部がビジョン戦略を示し、それに沿って走っていくことをしてきました。

どうしてもこの過剰な競争社会の中で、シェアが取れれば良いとか、サービスの品質にあまり意識が向いていないとか、売り上げばかりで 社会に与える影響を考えてないということが起き始めました。

そんな中”グリーン”という多様な意見を出し合えるような組織が生まれてくるわけです。多様な人たちの意見が出れば出るほど、 盲点もなくなる。多様な人たちがちゃんと対話すると、間違った意思決定はしないだろうということで、多様性を大事にするグリーン組織が誕生しました。

非営利法人はグリーン的な感じで立ち上がっているケースが多くて、そうすることで、メンバーもすごくやりがいもあるしで、多様な意見で出し合うことで間違った方向にいかないのは事実なんです。ですが、 どうしても「船頭多くして、船山登る」の結果になってしまったり、あるいは多数決とか、民主的という考えの中で リーダーの存在がおろそかにされる場合があります。

結局創業者もあまたいるメンバーの中の1人ですよね、というような位置付けになってしまうと、合議や多数決で決めていくことになってしまいます。

最近のパーパス経営の危うさともつながるのですが、ビジョンとか戦略を多様な人たちの集合知で決めようとすると、フワッとしてくる。継ぎはぎであったりとか、あるいは抽象的すぎて他組織のホームページと張り替えても同じようになってしまい、判断軸にならなかったりということが起きてきます。

例えば、”子供食堂で幸せに”というビジョンを掲げていても、ある人は、子供の居場所を作りたい、ある人は格差をなくしたいと動機がそれぞれ違っていて、どうお金を使うかなど具体的な話になった時に揉めて合意できなくなってくる。

そういう時に、創業者がどんな衝動を持ってこの事業を始めたのかという物語に耳を澄ます必要があります。映画も小説もみんなで創ることはできません。もちろん創業者も直感としてはあるのだけれど、具体像を持っていなかったり、盲点があったり、多様な人と対話することで広がっていくということはあります。

ですが、そこで継ぎはぎのビジョンを作り上げてしまうと、グリーンの罠にはまっていってしまいます。

ティール組織は創業者の天性の感性も大切にし、みんなの集合的気づきとか発見や創発も大事にする。だからといって、創業者の想いを無視して、継ぎはぎのものは作らないというのが ティールの考え方なので、完全な集合知で全てを決めるとはなっていないんです。

完全に集合知で平等に決めるのは不可能だと言われ始めています。

またみんなで決めたからと言い訳できてしまうので、一人ひとりが徹底的に考え抜かないという状態もグリーン組織で生まれています。

ちゃんとソース役の感性に耳を澄ますことが意思決定で重視されているのがまず一点目です。

 

意思決定は絶対でなくてよい。動きながら学ぶ。

もう一つは統合的意思決定の話です。

グリーンまでの意思決定はギャンブル感がすごいんです。最終最後の分かれ道みたいになっていて、その意思決定で、自分のアイデアが採用されなかったらもう終わるとか、失敗したら、後で大変なことになるぞっていう。
みんな意思決定が重くて、大変なプロセスだと認識してる。

一方ティール組織では、意思決定を完璧主義に走るよりも、仮案でも決めてしまって、動いてしまいます。動いたことによって得られる知識とか、経験とか学びがある。100点満点の意思決定をする前に動いちゃおうぜっていう発想なんですよね。

もう一つは同じ組織に集まってるメンバーは、基本的に想いに共感しているのだから、良いと思ってやろうとしてることをまずはやらしてあげようよと。却下したり拒否したりということは基本しない。

確かに盲点などはあるかもしれないが、基本やらせてあげる姿勢をとって、やりながら学んでいこうというスタンスなんですよね。

日本においては意思決定はギャンブル化しているので、紛糾して決まらないか、丸くなっていって個性のない意思決定になってしまったりする。

ソースを大事にする、統合的意思決定のような会議の仕方は、 自分たちはまだ経験がないんだから、動いてみながら学びながらやっていきましょうよという意思決定の方法、メカニズムが特徴かなと思います。

 

株主が会社を所有するのではない試みの始まり

- ティール組織の中でも、会社は株主の持ち物でそれをボードが受けて執行していくというような形式とは異なる”スチュワードシップホルダー”について言及されていたと思います。もう少し聞かせてください。

ティール組織は組織論としての側面もありますが、社会全体システムを表す側面もあると考えています。例えば今の民主主義はオレンジとグリーンの間くらいの位置にあります。

そういう意味合いでいうと、金融市場や会社法はもっと古いパラダイムに基づいて今機能しているといえます。株式市場でいうと右肩上がり成長が前提であったり、成長による利鞘で稼げるということで成長し続けるプランを応援していく。要は、経済的リターンが1番にあって投資活動をすることになってます。

会社法でいうと、 やはりトップが全ての責任を負っているような状況があります。社会がアンバーやオレンジの段階の中で、 組織論だけティールにしてもやりにくいっていう感覚がありますよね。

要は、馬車の時代に車が現れてるようなものです。道路は砂利道で、ガソリンスタンドもないし、高速道路もない、部品も高い。

そんな状況の中で、今、世界では試行錯誤してる段階になってきています。

株主が会社を所有するのではなくて、財団を立てておいて、財団が所有する形で経営するのはどうだろうか?と言うような事例が出始めてきています。

利益が毎年右肩上がりであることを最重要視して、経営の意思決定するのではなく、どうやったら意思決定に今のオレンジ的経済のメカニズムを反映させないかっていうような ことのための株主とのコミュニケーションであったりとか、取締役会とか、会社法とかっていうものが色々発明されかけてるっていう状況です。

これでバッチリうまくいくてみたいなものがまだあるわけではないんですけど、そういう試みがかなり欧米では進んできてるって感じがしますよね。

 

- パタゴニアなどの事例(参考記事)も生まれてきていますよね。

草の根の実験でうまくいく場合もあるし、法制度も含めて頑張っていかないといけないという場合もあり。色々なアプローチを仕掛けていかないといけない時代なんですけれど。

日本では、組織に興味がある経営者の人たちはティールに関心を持って集まってきくれてはいるのですが、まだ金融関係・法制度関係の人たちの興味までは巻き込めてないところがあり、ちょっと遅れてるんです。

 

Q&A:「会議だけにいる存在だったら、いらないよね」

Q. 自分達の組織でもボードを助言プロセス的に用いるという形になっていると思います。ただボードと現場が遠いという話が出ていて、どうしてもボードと現場のボランティア・プロボノの皆さんの間に、専従の職員が入る形になり、顔が見えないという不満が出ていて、ボードのあり方を考え直しています。どんな考え方でそこを設計していったら良いと思いますか?

(嘉村)
自体が自分達の目的を問うて、真剣に対話していく必要があると思います。
フレデリックは基本的に「取締役会だけにいる存在だったら、いらないよね」と言っています。本当に目的を聞きたいのなら、現場に足を運んで、 本当に何が起こってるのか、見に行かないと成り立たない、という風に言っています。

誰をボードとして選定して入れるかっていうところが、結局その目的に変わってるところになると思います。
知恵の部分だけの専門性のアドバイスであれば、別にボードメンバーに入れず、違う形の助言プロセスでもよいはずです。

助言プロセスといった時、よく勘違いされるのですが、組織内の助言プロセスだけを指すわけではありません。本当に必要だったら、外部の専門家に対しても、助言してもらうのは当然ですよね。

今の組織論って外部と接するのは大体上層部で、 現場の人はもうずっとその組織内のうちにこもってやっていくとなっている。そうではなくて、現場が相談できる人たちがいて、年数時間OKしてもらっているので、どんどんアドバイスをもらって進めてくださいという設定作りもできる。

ボードの存在目的は何か、その上でのふるまいやあり方を、既存の考え方にとらわれずに設計していかないと、宙に浮いた存在になってしまうのではないかと思います。

 

(山本)
現場やボードが離れていってしまうというのは、よく聞きます。
うちの理事をしてくれている桜井さんが以前言っていたのは「自分がボードをしてるのは自分も実現したい社会、願う社会を、一緒にやってくれてると思ってるからだ」と。もちろん、時間のかけ方や 役割は違いますが、それぐらい同じ社会を願っている相手にボードになってもらうというのを、私はすごく大事にしています。

一方フェーズによって人の気持ちや思いは移り変わると思うんですよね。
今はこのことを強く願ってるけれども、フェーズや関心が変わってきた時に、正直に「ちょっとそろそろフェーズが変わってきたから、1回ボートという役割から身をひこうと思う」と話せる雰囲気をチームとして持っておく。
お互いのコミットや、共有度が感じられると思うので、自分がここにいるべきか、いないべきかっていうのを、ちゃんと自分に常に問い続けられる。それをメンバーがそれぞれできることが大事なのではないかと思います。

現場との距離という意味では、ボードミーティングをもっとオープンにしてみる、録画をシェアしてみる、現場に行ってもらう、あるいは現場を体験した人がボードになるなど、そういうことは大事ですよね。

 

Q. ボードと現場との信頼関係について。私は実行メンバーなのですが、現場にお金の決済権を任せるまでの信頼関係はどのように作れるのでしょう?団体に潤沢に資金がある場合は良いかもしれないのですが。信頼関係の構築と、逆にボードから信頼を得るためにどのようにしたら良いでしょうか?

(嘉村)
すごく大事な問いですね。海外のティール組織の事例で言うと、助言プロセスベースで進んでいることが本当に多いです。いわゆる 上下関係の承認プロセスや会議でお墨付きをもらうということがもうほぼありません。基本的に現場レベルの助言プロセスが尊重されていて、1回アドバイスをもらったら、自分で決めるということがかなり起こってます。しかも、 日本人が聞くと驚くようなレベルの金額の予算であったり。

日本では、助言プロセスが面白いということで、その部分だけを真似して、大崩壊してる例もあったりします。実現していくには段階が必要になりますよね。

例えば 情報の透明性。全体のお金の状況が見えていない状況でお金を使うと、使いすぎているのか、いないのかも自分達ではわかりません。上層部が見ているお金の情報と現場が見ている情報が違っていて、あると思って使ってみたら十分になかったみたいなことがあったら、もうそれで終わってしまいます。情報の透明さや多少のリテラシーが必要かもしれないと思います。

同時に、使った後の見える化ですよね。ある程度自由なんだけども、それがブラックボックスになっていると、いつの間にかみんな緩んだ状態でお金を使ってしまい、気が付いたらなかったみたいなことも起こり得ます。 ちゃんといつでも振り返れる。ただそこで糾弾したりし始めると、みんな怖くて使えなくなってしまうので、学び合って振り返るプロセスの透明化が必要です。

そして「これは違うな」と思ったら、意見を言い合える環境、健全に対立できることも大切です。日本でよく起こるのが、誰かが意を唱えた時、言われた方が政治ゲームを始める。
「あいつにこう言われたんだけど、おかしいよね」などと言って、仲間を集めて、排除の論理をし出す。

異なる意見を言うと危うさを生むというのが今の組織なんですが、ティール組織では、異なる意見を出した人が危うくならない仕組みをちゃんと作っていきます。意を唱えた人が、ちゃんと守られる状態にならないと、そこで、政治ゲームとか 社長に仲がいいから意見が通るというようなことが起きると、またどんどんヒエラルキーが生まれてしまう。

なので意を唱えた時に、どうやって話し合っていくのか仕組みを整えておく。そういう仕組みが全てある上で、 助言プロセスが実行できているということがあります。それらのことをすっ飛ばして助言プロセスだけ導入しても、多分うまくいきません。

同時に、日本人は「自由」と言っても、なかなか使うことに慣れてなかったりするので、その場合はみんなで話し合って、各部門10万円、20万円ぐらいのところかやり始めて、1年歩んでみて、振り返るというところからスタートしたりもします。

いきなり全部が助言プロセスで、自由にして良いというところに行かなくてもいいので、徐々にそういうステップアップしながら、学んでいくっていうのもしています。経験をつみながら、みんなができるようにしていくのが実際のところではないかと思います。

 

Q. 助言プロセスをAIが担う、そんなことがボードの未来になる可能性はあるでしょうか?

(嘉村)
半分そう、半分違うという感じがしています。
これは結構パーパス系の経営なのかなど戦略にも関わってくると思うのですが、外的なトレンドや専門用語、専門分野に関してはAIのアドバイスが適切でかつ良いということになると思います。ただそうなると基本的に、どの組織も同じような方向性に行ってしまうという未来が待ってると思うんですよね。

一方、ティール組織では”ディーペストポテンシャル(Deepeset Potential)”と言われる、組織が潜在的に持ってる最大限の可能性は何かというと、”現場のナラティブ”であると言われています。

例えば「うちの利用者さんは、ちょっと摂食障害を持っていて、こんな悲しみや苦しみを持ってるからそれを助けてあげたい」とか「たまたまうちの飲食のお客様との間で大失敗が起こったんだけれど、その失敗の中に すごいイノベーションがあったんです、実は」みたいな。

要は、抽象的なトレンドでは絶対出会うことができない、生々しい個人のストーリーとか、現場の物語っていうものはすごいユニークかつ可能性に満ちあふれているんですね。
そういったものが、「誰かがこういうことやろうと思ってるっていう」風に発した時に、専門の観点から言うのではなくて「うちの現場では、あなたがやろうとしてることにものすごく合う事例あったんだよ。その事例の経験も使いなよ!」みたいな生々しい助言プロセスこそ、人間がやってる価値だったりする部分があります。

どうしてもビジョン・戦略というのは、書類で上がって、抽象化されたものを基に、抽象化されたトレンドの元に照らし合わせた抽象的な議論っていうところを、いかに具体なナラティブテで対応するのかっていうとこで言うと、多分、AIには真似ができないところはいっぱい残ってるんだろうなっていう感じはしています。

 

(山本)
ボードに何を求めているのかに関わるのかなと思います。専門的なことや客観的な事実などはAIが答えられると思います。ですが、コーチ的な存在だったり、もう少しソフトなところの存在意義みたいなことは、人がそのまま持ち続ける。そういった役割が欲されているのではないかと思います。

 

 

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