『非営利組織のガバナンス』のエッセンス、ガバナンスに関する課題意識~学びの実践仲間の企画キックオフ会(出版3周年記念)より
『非営利組織のガバナンス―3つのモードを使いこなす理事会』の出版3周年を記念して、本書のエッセンスを紹介し、現場での活用事例やガバナンスなどへの問題意識を共有しあう会を2023年1月30日にオンライン開催しました。
本キックオフイベントをきっかけに、ガバナンスに関する対談インタビューや勉強会などのアクションが始まっています。この記事は本イベントのまとめ記事です。前半の本書のエッセンス紹介部分については、アーカイブ動画もご覧ください。
(議事録 三代祐子、記事作成 三瓶巧・山本未生)
<第1部> 本書を訳した背景やエッセンスなどを訳者(山本未生、World in You代表)より紹介
「より良い社会づくりに力を発揮し合うメカニズム」としてのガバナンスを探求する
ボード(理事会)やガバナンスというと、管理監督される・現場にいないのに色々言われる・不正を防ぐ・リスクマネジメント・コンプライアンスなどをイメージされる方は多くいらっしゃると思います。
管理監督などの意味あいも確かにありますが、World in Youはガバナンス・ボードを、「より良い社会づくりに力を発揮し合うメカニズム」として考えています。多様な人の視座やその理事が持つリソースの視点を組織の意思決定やミッション実現に活かすにはどうしたらよいかを探究したいと活動しています。
ボード(理事会)は意思決定と活動のパートナー
World in Youがガバナンスに着目してきたのには2つの理由があります。1つ目は、東北の社会起業家の方々との出会いからです。
2011年の団体立ち上げから東北の被災地で活動する社会起業家の方々に出会ってきました。(World in Youは2022年にWIT(World in Tohoku)団体名を変更しています。)彼らと協働し、経営の伴走をする中で、社会起業家の意思決定が孤独だと実感しました。
その経験から、意思決定のレベルでのパートナーを増やし、様々な視点やリソース(ネットワークや経験など)を持っている人たちが参画できれば、組織の力も上がり、インパクトが伸びていくと考えています。
もう1つは、 私自身の代表経験です。私はWorld in Youの共同創業者で、立ち上げ当時は理事でしたが、設立後数年経って、代表を交代しました。
代表になるまでは、理事会やボードのある意義が実際にはよく分かっていませんでした。しかし、代表になった際に、理事会の重要性に気づき、理事会を「意思決定を良い形でしてゆくためのパートナー」と捉え、理事会を再構成したりしました。自身の体験からも、ガバナンスに取り組むことはすごく重要だと考えます。
自分たちにとってのガバナンスのあり方は、自分たちで考える
ガバナンスに1つの正解の型はありません。組織のあり方によっても、フェーズによっても変わってくる。ですから、人から教えてもらったことや本とかに書いてあることを、そのままやればいいというわけではありません。その時々で自分たちの求めるガバナンスのあり方を内省し対話しながら、答えを探していくものです。
ガバナンスはリーダーシップの源泉
本書の前書きで、ガバナンスとは「組織の全体としての方向性、有効性、監督機能、説明責任が果たされるようにするためのシステムやプロセス」と書きました。法規制の遵守、社会的信用の確立、リスクマネジメントなどの観点に加えて、私たちがガバナンスを重要と考える理由は、「ガバナンスはリーダーシップの源泉」だからです。 原著のタイトルがGovernance as Leadershipであることからも、私たちがとても伝えたい点です。 理事は、組織のリーダーと対決する必要はなく、理事自身も自らリーダーシップを発揮しながら組織の発展・ミッションの遂行に尽力することができます。
ガバナンスの3つのモード
本書で紹介されている、ガバナンスの3つのモードという実践的なフレームワークを簡単に紹介します。読んだだけではできるようにならないので、実践し続けることが重要です。今回、「学びの実践仲間」とイベントタイトルに入れたのも、そのような仲間を増やしていきたい思いからです。
(World in Youプレゼン資料より抜粋)
- 受託モード: ボードをコントロールするメカニズムとして捉えるモードで、財産管理などを行う役割です。
- 戦略モード: ボードを団体の方向性を決めていくものとして捉えるモードで、 理事会は、運営陣と対等に戦略を議論するパートナーとしての役割を果たします。
- 創発モード: ボードを意味を形づくっていくものとして捉えるモードで、 団体がどういう方向に進んでいくか・そもそも何を生み出していくべきかなどの意味を形成していくため、リーダーシップの源泉と呼んでいます。
団体が、現在地のA地点からB地点に行きたいとします(下図参照)。
- 受託モード: 問題が起きたり横道に逸れたり変な方向に行かないように見張り見守り、説明責任を果たすなどの機能があります。
- 戦略モード: 目標までいかに効率的・効果的に行くのか考え、途中で生じる問題を解決し進んでいきます。
- 創発モード: 「そもそも、今私たちはどこにいるのか」と現在地点を意味づけ、目的地をフレーミングすることです。
これら3つ全てをバランス良く使っていくことが大事です。
議論のスタイルや問いの変化
(World in Youプレゼン資料より抜粋)
3つのモードを使い分け・使いこなすことで、議論の進め方に変化が出るようになります。
- 受託モード: 「問題はないか?」「うまくいっていないことはないか?」といった問いが多く、議論の進め方はアジェンダがきっちり事前に決まっていて、決議を取っていくスタイルです。
- 戦略モード: 目標・計画を達成していくための議論を論理的に進め、合意形成しながら進みます。
- 創発モード: 時に立ち止まり、「そもそも私たちにとって大事なことは何か」といった問いかけもしながら、議論は大胆で横道に逸れたりもします。
団体のフェーズや事案に合わせながら3つのモードを活用していくことで、ボード・社員総会・経営ミーティングなどの議論や意思決定が、よりミッションに向かっていくのです。
団体とボードの関係を例えてみる
団体とボードの関係を3つのモードそれぞれから比喩で表してみると、
- 受託モード: 団体が「川」だとすると、 川が氾濫したり決壊したりしないように、「ダム」の役目を果たすのが理事会。
- 戦略モード: 団体が「車」だとすると、走る方向を照らしてくれる「ヘッドライト」が理事会。
- 創発モード: 団体が「芸術作品」だとすると、それを生み出す「デザイナー」「インスピレーション」そのものが理事会。
全てのモードが大事な中で、特に創発モードにボードが関与できるかが、中々難しいという団体が多いと思います。創発モードは、運営陣と理事会の両方が協力してやっていくことが大切です。
外部理事の中には「やりがいを感じない」「どこで役に立てているかわからない」という型も多く、創発モードを運営陣が中心で進める(下図の4象限の中で右下の部分)団体も多いと思います。World in Youとしては、そこに、様々な視点やリソースをもったボードがもっと関わっていけるとよいと考えています。
(World in Youプレゼン資料より抜粋)
<第2部> 参加者との意見交換・Q&A
参加者の皆さんに下記の問いについて伺いました。
- 本書を読んでくださった方は、どういう問題意識をもって読んだか?
- 今あらためて、なぜこの本に関心があるのか?
- 気づきや学びはどういうところにあったか?
- 実践にどう役立てているか?
(参加者A)
2020年に最初に読みました。前書きから「組織が課題や曖昧な状況に直面した時にこそ、こういう(ガバナンスについて見直す)活動を行うチャンスがある」というメッセージを受け取り、手に取りました。
目からうろこの内容が多かったのですが、現在の組織に応用しようと思ったとき、現状ではギャップがあると感じました。そこで、内部理事を1年くらいかけて形づくり、これからは外部理事も大切になってきたね、というフェーズにきました。本書を通じて、誰に理事になってもらいたいかよりも、「どんな理事会にしたいか」から考えることが大事だと学びました。団体の代表としての普段の活動や意思決定も変わってきました。ボードメンバーがチームで、今はどのモードをどういうバランスで組み合わせたいか等に意識的になれるといいと思います。
(山本)
内部理事だけでやってきたところから、外部理事も入れようという団体は多いと思います。そのように思うきっかけは何でしたか? その時にどんな懸案事項や課題がありますか?
(参加者A)
学生として活動に関わりNPOになり正職員になった理事ばかり。現場と理事会のメンバーが重なっているときに、「現場はこういう場にしよう、理事会はこういう場にしよう」ということを改めて話しあえると良いと思います。団体が成長するにつれ、長期計画やもっと大きなお金を使うようになったら、自分たちだけでがんばるだけでは限界があるところを、どんな人に入ってもらってもらいたいかを考え始めるのがきっかけですね。
(山本)
本書は米国で書かれ、対象として想定いる団体は、専従のスタッフと外部理事がいる団体がメインなのですが、団体が成長してそのようなフェーズに至るところに難しさがあり、本書もそこへのヒントが多いと思っています。
(参加者B)
現状、理事会をあまり活用できていません。組織拡大中で人事評価制度も整備していきたい。個人の主観だけで意思決定するのでは不安があり、ガバナンスを機能させていきたいです。より大きい組織にして多くの受益者にインパクトを出していきたいので悩んでいます。
(山本)
私自身の経験からも、自分(たち)の視点だけで見えていることは限られていて、それだけで団体を進めることは危険でもあるので、共感します。
(参加者C)
アメリカの団体で組合型の組織の社外理事をしていますが、理事が何ができるかに加え、経営陣のあり方や、それと理事とのマッチング、どういう形でガバナンスをどうやっていくかに関心があります。分散型の経営を目指していて、CEOのあり方自体を見直しています。CEOに全権限を集中させず、複数の人に分散させると、責任の所在の問題が出てくる。役員に対する社会的責任は重い中で、どうやって明確にするか。理事側だけでなく経営側の経営のあり方も今問われているところです。
(山本)
経営執行側も、代表一人ではなくて、事務局も含めてのチームとして問われますね。企業の取締役会をコンサルしている方が、ボードミーティングの成功は、事務局側がいかに準備をできるか、問いを設定できるかにかかっていると言っていました。多様な組織形態がある中で、ティール型組織だったらどうなるかなどにも興味があります。
(参加者D)
私は企業の内部監査部門やビジネス部門にいました。そういう経験から、この本を読むとまさに企業と一緒だなと思いました。堅実に進めてゆく受託モードや、イノベーションが起きるような創発モードなど共通性を感じました。本書を読んで米国のNGOのパワフルさを感じました。日米の違いをあげるとすればガバナンスに対する考え方ではないでしょうか?そこにカギがあるのではと自分も興味があります。
(山本)
本書は企業の人とも読みたいと思っていました。出版する際のマーケティングとしてはNPOにフォーカスしましたが、本質は同じだと思っています。
ガバナンスという意味では、先日面白い話をラジオで聞きました。米国の病院の半数はNPOです。それにもかかわらず、結構な病院がお金もうけに走ります。本当は低所得層には公共サービスをしなければいけないはずなのに、コンサルタントが入ってきて、どんな患者からも支払ってもらえと進言する例が取り上げられていました。それもガバナンスの問題だと思いました。
「今後に向けて」
World in Youとしてはボード&ガバナンスの分野で、下記のような取り組みを進めています。
(World in Youプレゼン資料より抜粋)
参加者の皆さんの興味関心ややってみたいこととして下記の点などをシェアしていただきました。
- 非営利組織の理事は誰を代表(Represent)しているかが重要な問いだと考えています。ゼブラ企業でもステークホルダーを重要な位置づけとして考えています。企業だと、顧客に限らず従業員、地域住民なども含み、NPOだと市民がステークホルダーですね。どのステークホルダーに対してRepresentするかは難しく、答えが1つではないので、探求したい。
- ガバナンスはブラックボックスで、非営利でも営利でも、言葉としては知られているが、実際に何なのかは曖昧なことが多いです。そのブラックボックス感を解いていきたい、特に私たちはゼブラ企業型のガバナンスを探求していきたい。
- 理事会の変革のプロセスはどんなものがよいのか? 安全な場でプロセスを作りたい。ガバナンスについて、一年など一定の時間をかけながら作るプロセスがあれば知りたい。
- 他団体を参考にしたいが、ホームページからだと外向けの情報しかわからず、また成功例ばかり。失敗例や、まだ解決してないこと、こんな方法で解決した、などを勉強できるとよい。
- オンラインスクールなどで知識を得たい。
- 「ガバナンスがよい」といわれる団体や企業はどのようなところなのか?
- プランニングツールや会議体の例など共有できたらうれしいです。
- 東北被災地で活動をしていますが、東北では震災対応を契機に緊急に設立された組織が多いので、ガバナンスの成功・失敗の両方のケーススタディがあると思う。
- 登記時には、理事会の議事録に「選任の承認」だけが確認できれば良いことになっていていて、戦略モードや創発モードを促すような仕組みになっていない(求められない)ことも改善していけるとよい。
- 理事会の各ガバナンスモードを評価してみると、より深い議論が可能になりそう。理事会や各理事の評価ポイントを示せると良い。本業では監査人として、執行側、内部監査との相互評価をしたりしているが、それを参考に、例えば理事同士でガバナンスの観点で相互評価を行うなどもおもしろそう。
上記のような興味関心を共有いただいた上で、本イベントからは、ゼブラ企業×ガバナンスやティール組織×ガバナンスなどのテーマで、いくつかの探求する試みが生まれてきています。
World in Youでは、皆さんと学び・実践するコミュニティになっていけたら嬉しいと考えています。
関心がある方はお気軽にご連絡ください。