WITシニア・アクセレレーター / クリスティーナ インタビュー ~ ボード&ガバナンスの学びシリーズ Vol.4
*この記事は、WIT(現World in You)のホームページからの再掲載です(2019年1月1日)
ボード&ガバナンスについて学んでゆくインタビュー第4弾は、三菱重工業や日本取引所等の社外取締役を務め、コーポレートガバナンスやリーダーシップについて研究し、一橋大学で教鞭をとる、WITシニア・アクセラレーターである、クリスティーナ・アメージャン氏にお話を伺いました。
~これまでの経緯~
WITでは2016年から、ボード&ガバナンスワークショップを始めており、社会企業/NPOの代表・ボードメンバー・スタッフ・ボランティアの方や、社会貢献に興味があったり関わっているビジネスパーソンの方に、受けていただいております。その中で、日本の事例をもっと学び蓄積していきたいね、という声が多数上がり、この記事のシリーズを始めることにしました。
普段知る機会が少ない、NPOの理事・監事としての関わり方について、ぜひ覗いてみてください☆
聴き手:吉岡利代、山本未生
文責:山本未生
経営者が真空状態の中で単独で行う意思決定には、大きなリスクが伴う
インタビュー開始早速、いきなり本質を訊いてみました!
1. ボードの存在意義はどこにあるのでしょう?
クリスティーナ:
どんな組織のリーダーにとっても、外部の人からのアドバイスをもらうことは大事です。ビジネスマネジメントの社会心理学の研究でも言われているように、経営者が真空状態の中で単独で行う意思決定には、大きなリスクが伴います。
ステークホルダーからリソースを得て、ステークホルダーに価値を届けている組織においては、組織がミッションを達成しているかをモニタリング、チェックする機能を持つことが重要です。営利企業であれば、株主から資本金、社員からリソースを得ているように、非営利団体でもドナー等の外部ステークホルダーからリソースを得ています。
これに加えて、非営利団体は色々な面で制約がありますが、ボードはこれに対してリソース、経験、ネットワークを提供することできるという利点もあります。
非営利組織のボードには、リーダーシップ育成という大きな役割がある
2. 大企業、中小企業、スタートアップ、非営利団体のボードの違いは何でしょうか?
クリスティーナ:
組織のフェーズ、発達段階、戦略によってボードは異なりますが、一般的に大企業では、モニタリング、チェック、アドバイス機能、そして、必要に応じてCEOを採用・解雇する役目が大きくなります。スタートアップは非営利団体にも近く、アドバイスや、リソースの確保の役割が大きくなります。
小規模や非営利の団体においては、ボードは人的資源であり、積極的に外部に働きかけて人材や資金を獲得してくる、という役割があります。米国では、ボードメンバーが寄付する、資金調達するという期待値がありますね。
未生:
そうですね、それに関しては、Governance as Leadershipの著者が、「米国の非営利団体のボードは、ファンドレイジング機能に偏りすぎている」と言っていました。資金を始めとする資源の獲得も重要ですし、他にも重要な役割がありますね。
クリスティーナ:
日本ではファンドレイジングの必要性もありますが、リーダーシップ育成のニーズが大きいと思います。これまで日本においては、リーダーシップを学ぶ機会は会社に就職してからのOJTが殆どでした。さらに日本ではまだ非営利団体の歴史が浅いこともあり、リーダーシップを育成する機会が少ないと思います。
未生:
そこで、ボードがアドバイス、メンタリング、コーチングの役割を担うことで、組織のリーダーが育つということですね。私自身の経験をふりかえっても、ボードがリーダーシップを育てるという面は非常に大きいと思います。
3. アメリカでは、ビジネスパーソンが非営利団体のボードやアドバイザーを務めることはかなり普及しています。日本において、営利企業と非営利団体のボード人材をさらに繋げることは可能でしょうか?どうしたら双方向の学びを深められるでしょうか?
クリスティーナ:
このことに限らないですが、外部の人間とつきあうことを心地よく思えるか、外部に対して開くことができるかが、日本のあらゆるところで変化を起こしていくための鍵だと思います。
コーポレートガバナンスの文脈では、コーポレートガバナンス・コードの策定の過程で、当初は社外取締役を入れることに企業のトップが慌てふためいていました。長い時間がかかりましたが、今では、CEOが、「社外取締役は考えていたほど悪くはない。緊張感がかえって良い意思決定につながり、コミュニケーションも良くなる。良い変化へのコミットが増す」という声がきかれます。
未生:
そのような変化はどうして起きたのですか?
クリスティーナ:
やらなければいけない状況になり、実際に経験してみたことで変わってきたのだと思います。ガバナンス・コードもそうですが、テンプレートがあることも大事です。このひな形に従えばできる、というテンプレート。例えば、社外取締役2名、CEOの人事に関して委員会を設置する、ボード評価を実施する、ボードトレーニングを実施する、ボードの役割を文字に落とす等、「これがグローバル基準でみて良いボードですよ」というひな形です。そのとおりにする必要はないのですが、スターティングポイントとしてあることは役立ちます。
利代:
現在WITで翻訳中の本(Governance as Leadership)にも、ボードのひな形を付録で入れたらおもしろいですね。
クリスティーナ:
私の知人でもいますが、周囲に頼らず意思決定していくような強靭なイメージのCEOが自ら、「モニタリングされるのは良いことだ」と言えるようになったこと、そう発言してもOKな社会的受容が生まれてきていることも、変化の後押しとしてありますね。
ボードメンバーになることはリーダーシップ実践の機会
未生:
私は米国に住み始めて、若者でも成功したビジネスパーソンでも、非営利団体のボードに入り、社会に価値を発揮することが一種のソーシャルステータスになっているカルチャーを感じています。MITのビジネススクールでは、学生が地域の非営利団体のボードとして派遣されるプログラムに参加し、学ぶ機会を得ました。
クリスティーナ:
スタンフォード経営大学院でも、「生徒はどんどん外に出て非営利団体のボードになってこい」と、キャリアフェアでも、先生からもそう言われるカルチャーでした。すぐ実践できるリーダーシップの機会だし、ネットワークにもなるからですね。
未生:
本当に良いリーダーシップを磨く機会ですよね。ボードのリーダーシップは、自分で全部やるわけにはいかない、サーバント・リーダーシップの好例かと思います。
4. クリスティーナは、なぜガバナンスの分野に興味を持ち、研究や実践を進めてきたのですか?
クリスティーナ:
リーダーの育成と企業経営に関心があり、大学で研究・教鞭をとりながら、企業の社外取締役もしています。教師は、自分の経験を学生に実際に渡しますが、ボードはそうではない。ボードはマネジャーとカルチャーを育てることだと思います。良いボードというのは、チェックやモニタリングもしますが、長い目でカルチャーを育てること、良いマネジャーを育てることであり、組織のトップにおけるHR(人事部門)だといえます。
未生:
自分もボードに育ててもらっているというのはとても感じます。先日は理事の1人とあるトピックについて話していたのですが、「以前からこのトピックについて気になっていたが、未生さんの準備ができていないだろうからまだ話せていなかった。それが今話がこうやってできて嬉しい」ということを言われました。団体の代表としての自分の成長を見守って促してくれているんだ、とありがたく思いました。
ボードメンバーがCEOとだけつながっているような場合は危険
クリスティーナ:
CEOとボードとの関係性は組織の命運を左右します。セオリーだと、ボードがマネジメントに●●をする、マネジメントがボードに●●をする、と書いてありますが、一方向ではなく、双方向のやり取りです。CEOはボードの役割や期待値を非常に明確に理解する必要があるし、その逆も然り。どう役割に線を引いているのか、どこまでやることを期待しているのか、コミュニケ―ションが上手くいかなかったらどういう前提を見直す必要があるのか、明確にしていくことが大事です。
5. クリスティーナは、社外取締役として具体的にどう関わっているのですか?
クリスティーナ:
会社によりますが、ボードミーティング、ボードブリーフィング、現場訪問・視察、社員等への講演、投資家に話す機会等があり、単独あるいは他のボードメンバーと一緒に行います。会社からの要望で行う業務と、ステークホルダーとの関係性ができて自然に関わる機会につながる場合とがあります。
ボードメンバーが、会社の複数の人間とつながりをつくっていくことも大事です。長くいる組織とは、それだけ多くのコンタクトができていきますね。ボードメンバーがCEOとだけつながっているような場合は危険です。
未生:
CEO側にとっても、ボードが自分以外の組織の構成員とつながっていることは、安心しますね。
クリスティーナ:
それは良いCEOの場合ですね。CEOによっては、安心と思う人もいるが、自分以外の内部者と繋がられるのは怖いと思う人もいます。
利代:
ボードに参画するということは、本当にリーダーシップが求められますね。たとえば、企業が非営利団体ににボード人材を派遣するようになれば、社会貢献だけでなくリーダーシップ育成の価値もありますね。
クリスティーナ:
リーダーシップって、一つには、組織をまわすということだと思うのですが、それを学べる機会ですね。コーポレートガバナンスにおいては、外部の声を聴くことの価値が広まってきました。これは非営利団体にとっても意味がありますよね。非営利団体だって、お人好しの単なる集まりではなくて、外部のリソースを得て活動している立派な組織なんですから。
未生:
より良いガバナンスを通じて、非営利組織や社会企業のインパクトを伸ばしていく可能性がここにありますね。
利代:
日本でも、非営利団体のボードに参画することがかっこいい!という社会になるといいなと思います!
~あとがき~
監督やモニタリングをするだけのボードではなくて、リーダー育成の役割を持ち、また自らリーダーとして成長していくボードメンバー、というメッセージに大変共感したインタビューでした。
クリスティーナが以前「社会起業のボードやガバナンスについて考える勉強会」で講義をしてくれた内容もこちらにありますので、ぜひご覧になってみてください。
クリスティーナ、インタビューに応じてくださりありがとうございました!
吉岡さん、 インタビューありがとうございました!
ー 山本未生
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◆World in Youについて: World in Youは、組織・セクター・国などの様々な境界を越えて、より良い社会を目指して共創するリーダーや組織、コミュニティを育てることをミッションに、これまで200以上の社会的ミッション企業や500名以上のビジネスリーダー、非営利組織のリーダーや学生たちにリーダーシップ育成プログラムを提供してきました。
訳書『非営利組織のガバナンス』(2020年、英治出版)