「想い」と「仕組み」をつなぐガバナンス支援 ~ NPO法人セブン・ジェネレーションズの合宿伴走

組織が成長し、新しいメンバーが加わる中で、「想い」だけでは乗り越えられない課題に直面することがあります。特に、対話や関係性を大切にしてきた組織ほど、意思決定の構造やガバナンスの整備に難しさを感じることも少なくありません。
NPO法人セブン・ジェネレーションズ(以下、SG)は、持続可能で公正な未来を実現するための社会教育プログラムや人材育成を行う団体です。深い対話と関係性を大切にする組織文化を持つ一方で、理事の役割や意思決定プロセスの不明確さという課題を抱えていました。
World in Youは、SGと共に二泊三日の合宿を通じて、組織の根幹を問い直すプロセスに伴走しました。
本記事では、野崎安澄さん、岩瀬淑乃さん、寺社下茜さんへのインタビューを通じて、World in Youとともに組織変革に取り組んだ実践と変化をご紹介します。
(聴き手:山本未生、記事:野崎安澄さん)
NPO法人セブン・ジェネレーションズとは
セブン・ジェネレーションズは、「持続可能で公正な未来を実現するために、目覚め続ける世界市民のコミュニティを育む」ことをミッションに掲げています。環境、社会、精神性の三つの側面から持続可能性を捉え、環境・社会教育プログラムや啓発プログラムを提供しています。
SGは、以下のようなプログラムを展開しています:
1)社会教育事業
●チェンジ・ザ・ドリーム シンポジウム
●ゲームチェンジャーインテンシフ
・参加者が深い対話を通じて自分自身と世界を見つめ直す。
・気候危機・社会課題に向き合う学びの場:専門知識と経験を交えながら、市民としての実践を考える。
2)人材育成事業
・リーダー育成:実践者や社会活動家が、内面的成長と社会変革を両立させられる場を提供
3)ネットワークづくり:全国・グローバルに共鳴する人々との関係性を築き、連携を深めていく。
このような活動を通じて、SGは参加者一人ひとりの人生や視野に変化をもたらし、また社会を変えるゲームチェンジャーとコミュニティを育んできました。
「組織の未来を本気で話し合うタイミングなんじゃないか」
- 山本:本日はよろしくお願いいたします。初めにWorld in Youにご依頼いただくまでの経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
岩瀬さん:
SGが合宿を決意したきっかけのひとつは、2024年末マッキンゼー社主催のNPO向けセミナーへ私と寺社下茜の理事2名が参加したことでした。
セブン・ジェネレーションズって、もともと“人の気持ちに寄り添うこと”とか、“自然の流れに沿うこと”をとても大切にしてきたNPOなんです。合宿の場でも“ワシとコンドル(*1)”の話が出てきましたけど、まさにそこに象徴されるような、右脳的で、感性や直感に強い人が多い組織だと思っています。
(*1)ワシとコンドルの予言
アマゾン先住民族に何千年も前から伝わる予言。人類は歴史の中で二つの道に分かれ、「コンドルの道」(心・直感・女性性)と「ワシの道」(思考・科学・産業・男性性)が別々に進んだ。
第8のパチャクティ(1490年代からの500年周期)でワシが優勢となり、コンドル的人々を絶滅寸前に追い込んだ。これはコロンブス以降の植民地化と先住民族抑圧を象徴する。次のパチャクティ(1990年代~)では、ワシとコンドルが一つの空で舞い、踊り合い、新しい意識レベルで融合する可能性の時代が訪れるという内容の予言。
一方で、私たちが“ワシ”と呼んでいるような、左脳的で理路整然とした部分 -つまり、制度を整えたり、資本主義社会の中で組織として仕組みを回したりするところは、あまり得意ではなくて。
これまでは、人の善意とかコミュニティの強さでなんとか成立してきたんですけど、それだけではもう運営的に限界がきているタイミングでもあったんです。
その“弱みでもあり、特徴でもある部分”がはっきり見えてきて、
『これは一度、組織の未来を本気で話し合うタイミングなんじゃないか』
と感じました。
でも同時に、“誰とどう話し合うか”が大きなテーマにもなっていました。
SGには、コーチングやファシリテーションを学んでいるプロが本当に多いんです。私自身もそうですし、コミュニケーションの面では、ある意味とても上手にやれてしまう。だからこそ、“内部だけでやると、深いところをごまかしてしまうかもしれない”という感覚もあったんですよね。
全員で話したい、有志で話したい、でも自分たちで自分たちをファシリテートするのは難しい。
そこで、外部の人にファシリテーションをお願いしようという流れになりました。
ただ、誰でもいいわけではなくて。
私たちが大切にしている“ワシとコンドル”の世界観を理解しつつ、理性的な整理もできて、両方のバランスをとってくれる人がいいよね、と。
そこで自然に名前が挙がったのが未生さん/World in Youでした。
“あ、未生さんなら分かってくれる。”
“だったらお願いしようよ。”
そんな感じで、合宿の依頼につながっていきました。
- 山本:理事メンバーが増えたタイミングも、見直しの必要性を感じたきっかけだったとか。
野崎さん:
そうなんです。ちょうど新しく理事として寺社下さん含め3人が入ってきて、まだ数か月くらいのタイミングでした。
最初は、“年4回の理事会に出てもらえれば大丈夫だよ”という感じでお願いしていたんですが、だんだんと彼女/彼らから
『私たちは具体的に何をしたらいいの?』
『理事の役割ってどこまでなんだろう?』
という声が出てきたんです。
寺社下さんも話していたんですけど、“せっかく理事になったんだから、もっと知りたいし、もっと貢献したい”という思いが強かったんですよね。
それなのに、役割がふわっとしていて、“理事として何を担えばいいのか”が分かりづらかった。
- 山本:“もっとくっきりさせたい”という感覚があったんですね。
野崎さん:
はい。それがすごく大きかったと思います。
“役割を知りたい”というよりも、“SGにどう関わっていけばいいのか知りたい”という声に近かったというか。
それで、
『じゃあ、ちゃんと集まって話す合宿をしようよ』
という話になっていった記憶があります。
寺社下さん:
そうそう。別に“わからないから教えてください!”みたいな強い感じではなかったんです。
だけど、私たち新しく入ったメンバーは、みんなそれぞれの形でSGに関わり始めていて、理事会に出るということ自体は理解していたんだけど……。
ただ、“役割が割り振られる”というよりも、
“自分で見つけていく”性質の組織なんですよね、SGって。
そこに戸惑いがあったのは確かです。
それに、やっぱり“全体で何が起きているのか”とか、“どんな人がここにいるのか”とか、そういうものに触れる機会がないと、自分の役割を見つけようとしてもすごく難しい。
逆に言えば、そういうことをみんなで共有する場があれば、
“ここから何が起こりうるんだろう?”
という可能性を見出すことができるんじゃないかと思ったんですよね。
だから、合宿という“まとまった時間”が、すごく大事になるんじゃないかと感じていました。

(SGとの合宿より)
“安心できる器”が本当に必要
- 山本:ありがとうございます。2泊3日の合宿という形で関わらせていただきましたが、印象に残っていることなどを教えてください。
岩瀬さん:
まず感じたのは、“ちゃんとしたセオリーを持っている方なんだ”という安心感でした。
事前のヒアリングも丁寧にしていただいて、全体の計画もきちんと立てていただいていたんですよね。
でも実際に合宿の場に立つと、いろんな予期せぬことが起きるじゃないですか。
その時に、未生さんがすごく柔軟に、場に合わせて進め方を調整してくださったのが印象に残っています。
“計画に縛られず、でも流されもしない”
そのバランス感覚が、とても信頼できるものでした。
野崎さん:
私が一番印象に残っているのは、実は合宿当日より準備段階なんです。
とにかくヒアリングが丁寧で、
“SGに何があったのか”
“どんな歴史を歩んできたのか”
を一生懸命理解しようとしてくださる姿勢があって。
私たちがお願いしている以上のところまで、すごく深く寄り添ってくれている感じがあったんですよね。“こんなに丁寧に向き合ってくれるんだ”とありがたかったです。
当日の進行も、時間が押したり、展開が読めない瞬間も正直ありました。
“これ、結論まで行きつくのかな…?”と焦りの気持ちが出た場面もありました。
でも、未生さんは焦りすぎることなく、
“押すべきところではしっかり押す”
“押しすぎないほうがいい場面ではそっと引く”
という関わり方をしてくれていました。
その絶妙な“押し引き”が、場を前に進める力になっていたと思います。
寺社下さん:
私は事前ヒアリングにはあまり関われていなかったんですが、後から『あんなに時間をかけて話を聴いてくれたんだ』と知って驚きました。
資料の準備や、当日のスケジュール、グループ分けの設計もすごく細やかで、
“いろんな声がちゃんと出てこれるように”
工夫されていたことがとても心強かったです。
そして何より、未生さんの“あり方”に助けられました。
SGにとって、構造的な話って少し“エッジ(変化に対して現れる心理的壁)”なんです。
普段の対話ではあまり触れない領域で、頭も感情も使うし、痛みも出やすい。
そこにみんなで踏み込むには、“安心できる器”が本当に必要でした。
未生さんは、その器をつくってくれていたと思います。
柔らかさがありつつ、必要な時にはしっかりと導いてくれる。
もしこれが“ガッチガチの人がガッチガチに進める”スタイルだったら、SGらしさは失われてしまったかもしれないし、抵抗の方が大きかったと思うんです。
今回は、そこを越えていけた。
それは、あの場に安心感があったからこそだと感じています。
私はまだ関わって数年で、外から見るとSGって“いつも柔らかくて優しい組織”という印象が強かったんです。
困っている感じはあまり見えないというか、余裕があるように見えていました。
でも、合宿ではその裏にある“痛み”“苦しさ”があらわになりました。
“こんなに抱えていたんだ…”
と驚くくらい、深い部分が出てきたんですね。
その場にいるのは正直、苦しい時間でもありました。
三日間の中で出てきた感覚が、体にずっと残るほどでした。
でも、苦しかったけど大事な時間だったという強い実感があります。
新しく入った私たちがどこまで言っていいのか迷いながらも、
“そこにいていい”
と感じさせてくれる場だったからこそ、あの深さに触れられたんだと思います。
- 山本:ありがとうございます。私も準備の中で何度か打ち合わせをしていただいたんですが、その時にいただいた情報や、どんなグループ分けをするかとか、参加者への情報共有もすごくきめ細かくやってもらって、本当に印象的でした。
関係性の中でどうしても遠慮が生まれてしまう
野崎さん:
新しく入った理事のメンバーたち──あかねやあいな、他のみんなもそうなんですが、
“自分はまだ関わっている期間が短いから”
“あまり貢献できていないから”
“どこまで口を出していいのかわからない”
という遠慮がずっとあったように感じていました。
合宿の後半では特に、“意見はあるけれど、自分がどこまで責任を持てるかわからないから言えない”という声も出ていました。
その気持ちはすごくわかるんですが、組織としては“申し訳ないと思わないで、どんどん言ってほしい”という気持ちも同時にあって。
でも実際には、関係性の中でどうしても遠慮が生まれてしまう。
組織って本当に難しいなと感じた瞬間でした。
寺社下さん:
新しく理事になった時、“事業に深く関わっていなくても、理事会に出られればOK”という説明で参加したんです。
だから、みんな“それくらいならできる”という気持ちで引き受けていました。
でもその先、
“理事としてどこまで関わるのか”
“どんな範囲が自分の権限なのか”
が明確でないまま時間が過ぎていって。役割がはっきりしていれば、“この範囲なら私が言います”“ここは私が担います”と表明できると思うんです。でもふわっとしているからこそ、対等に話す感覚にはなりづらかった。
だから、“声を出す場としての対話会があるといいな”という気持ちもありつつ、
同時に、“何かを決める議論の場では、無理に声を出さなくてもいいのかもしれない”とも感じていました。
つまり、“声を出したい気持ち”と“出しづらい現実”が両方あった
ということなんだと思います。


(SGとの合宿より)
今、本当に大事なことが動こうとしている”という感覚が共有された
- 山本:二泊三日の合宿が終わって半年。みなさんの中で起こっている変化や、団体としての手応えを改めて教えてください。
岩瀬さん:
まず大きかったのは、“何をやめるか”がはっきり決まったことですね。
やめることで、逆に“今やるべきことは何か”も明確になりました。
やらなきゃいけないことには、
- これまでの活動の“後処理”
- 新しく生まれ始めたエネルギーを受けとめる“次の活動づくり”
という二つがあって、そのどちらも合宿で方向性が見えたのが良かったと感じています。
特に“後処理”の部分は、合宿後に週1回集まりながら、ずっと懸案だったガバナンス面の整備や、理事の役割の定義などを一つひとつ整理していきました。
これまでは曖昧だった部分が、文言として残せる形になってきた。組織としての基盤をつくるうえで、大きな前進だったと思います。
一番の実感としては、“後処理と基盤づくりが、ようやく現実レベルで前に進んだ”
ということ。これは本当に大きかったです。
寺社下さん:
私が印象に残っているのは、二泊三日というまとまった時間を、あれだけのメンバーで“団体の根本”について向き合ったことです。それって、今思えばすごいことなんですよね。
とくに、SGを支えてきた大きなプログラムを“止める”と決断したこと。
あれは本当に体力のいる選択でしたし、簡単にはできないことだったと思います。
その後に“魂の総会”と呼ばれる場を10月に開催しました。創業時からのメンバーが多く集まって、組織の今とこれからについて話す機会がありました。
合宿に参加していない人たちのあいだでも、“SGの中で今、本当に大事なことが動こうとしている”という感覚が共有されていたように思います。
希望だけじゃなくて、痛みやリアルも含めて扱われていたこと。
それが、この半年の大きな価値だったと感じています。
野崎さん:
2人が言ってくれた通りなんですが……合宿を経て最も大きかった変化は、やっぱりガバナンスや行動指針、役割の定義など、これまで後回しにしてきた土台の部分を、ようやく話せる時間ができたことです。
事業やプログラムを走らせながらだと、とてもそこに時間を割けなかった。
止めたからこそ、初めて向き合えたんですよね。
ただ、まだ“誰が最終決定を担うのか”という部分には課題が残っていると感じています。それでも、あの場では集まったメンバーで決断し、“これでいこう”と合意できた。その経験はとても大きかったです。
それから、細かいことかもしれないけれど、合宿後には“エンドゲームって何だろう”という言葉がメンバーの中で自然と共有されるようになりました。
小さな変化だけど、“どこがゴールなのか、何のためにやるのか”という問いを持つ感覚が育まれ始めたように思います。
岩瀬さん:
SGって、ずっと“誰が決めるのか”が不明確な団体だったんです。
それは、コミュニティを大事にしてきたからだし、民主主義を大切にしてきたからこそでもあるんですね。
定款上は、NPO法人として最終決定は“正会員”が総会で行う。
でも、物理的に“大きなこと”を決めるたびに全員が集まることは難しいのが現実で……。
なんとなく今までやってこれてしまったから、その曖昧さが残ってきたんだと思います。
今回の合宿も、
『合宿の実施自体を誰が決めるのか?』
『合宿で決めたことを誰が承認するのか?』
というところから迷いがありました。
そこで今回、苦肉の策として生まれたのが、“事前・事後のプロセス”です。
- 事前に正会員に知らせ、意見がある人は先に伝えてもらう。
- なければ、合宿の場で決める。
- 決定後は、必ず正会員に報告する
この流れをあらかじめ共有しておくことで、合宿を実施することも、合宿内で大きな決断をすることも、正当性が生まれたんです。
これが、結果的にすごく機能した。
『このやり方なら、今後も使えるんじゃない?』
と思えるプロセスが見つかったのは、大きな収穫でした。
- 山本:三日間を通じて、意思決定そのものをどう扱うかが、合宿の重要なテーマだったんだと、後から強く感じました。ただ、事前のアジェンダでは“中長期の方向性”が表にあり、意思決定の扱いをもっと早い段階で顕在化しても良かったのかもしれない……と、少し反省もあります。
岩瀬さん:
でも、今振り返ると、未生さんは合宿中に何度も“これ、誰が決めるんでしょう?”と問いかけていたんですよね。
あれが合宿全体の緊張感や、意思決定に対する意識を引き上げてくれていたんだと思います。
チームや組織で成長・成熟しようとしている組織のみなさんへ
- 山本:ご自身の体験も振り返りつつ、ボード&ガバナンスの伴走をどのような組織・団体に薦めたいと思われますか?
野崎さん:
SGは元々思いとか価値観はすごく強いんだけど、戦略や構造みたいなところはちょっと苦手で。でも思いが深いからこそ、単なるビジネス的なものにしたくないっていう気持ちがありました。それをうまく柔らかくつなげてくれるのが良かったんですよね。そういった悩みを抱えている団体におすすめしたいと思いました。
あとは若い世代が作ったまだ経験の少ない団体。また非営利でも営利でも、大きな違いなく合うと思います。
寺社下さん:
SGも、もともとは企業のマネジメントをしていた人たちが多かったんですが、企業とは違う世界観を求めて集まったんですよね。だから理想を持ちながら、でもちゃんと組織として成り立たせるのに、伴走していただけるのはすごく助かります。
最初に話した「ワシとコンドル」っていうイメージで、思いの世界と仕組みの世界、両方を実現していくのに必要な知見や関わりを提供してくれるのがとても価値があります。
岩瀬さん:
自分ひとりのリーダーシップじゃなくて、チームや組織で成長・成熟しようとしている団体、理念や思いを持ちながら、でも組織の仕組みやガバナンスがまだこれからというところに、ぜひおすすめしたいです。
