World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。
その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。

 

今回はその番外編としてシングルマザー支援事業を行うとともに、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科を修了し、現在も、シングルマザー及び女性の働き方/母子世帯の貧困/ジェンダーを研究されている一般社団法人ルータスの代表理事である大原康子さんにお話を伺いました。本記事はその要約です。全内容はYouTubeでお楽しみください。

 

男女雇用機会均等法から30年たつけれど

戦後の女性就労に関する法案は三つあります。

一つ目は1985年の男女雇用機会均等法。ちょうどこの前の1981年に女性差別撤廃条約が国連で発効され、その当時日本に守りきれていないものが3つありました。それが「お父さんが日本人でないと子供が日本国籍を取れない」ということ、「労働条件において男女の平等を定めた法律がない」ということ、そして「高校の家庭科が女性のみ必須であった」ということ。
男女雇用機会均等法はこの中の「労働条件において男女の平等を定めた法律がない」を守るために生まれたものになります。しかし中身としては社会政策としてであって、女性が働く上で望んだものとは違っていました。

二つ目の法案は1999年の男女共同参画社会基本法で、雇用だけではなく、社会参画に男女関係なく入っていけるようにしたものでした。
そして三つ目の法案が2015年女性活躍推進法になります。

男女雇用機会均等法から30年たった今、何か変わったかいうと、女性の家事育児の時間というのは1日あたり253分から258分と逆に5分増えてしまっています。また男性側は15分から39分と24分増えています。
つまり女性活躍推進法の中で男女の役割を変えていこうという機運はあるものの、現実問題としてあまり変わっていないのです。

 

非正規雇用か、正規雇用でマミートラックか

一方で女性の労働人口を見てみると、1985年と比べると現在は約2倍になっています。

「M字カーブ」と言われる、妊娠・出産・育児の段階で仕事から離れる女性が多かった現象は、現在解消されつつあり「台形」に近づいています。しかしながら就労者は増えている一方で、内訳としては、非正規雇用の女性が増えている、という現状があります。

非正規雇用のリスクとしては地位が非常に不安定で雇用を失いやすいということがあり、コロナの中でも実感された方が多いと思います。非正規雇用には差別的な扱いを受けやすい、給与が低いという課題もあります。

また働いていない女性にその理由を聞いた調査では、「出産育児のため」が25%である一方、「適当な仕事がありそうにない」という回答も34.5%と目立っています。これが意味するのは、女性にとって非常に働きづらい社会になっているということです。このため働きたくても働けない、働くことを諦めている人がかなりの人数いるということが分かります。

一方で正規雇用で働く際にも課題があり、その一つがマミートラックと言われるものです。
これは子供を産んだ後、正規社員として働こうとしてもキャリアアップの階段は登れずに、陸上トラックをひたすらぐるぐる回るような、お母さんとしての働き方しかできないという状況のことです。キャリアのサポート不足、成果が正しく評価されない、また残業前提のフルタイムに戻れないという物理的な制約もある中で責任が軽く達成感のない仕事しか与えられないという状況も起こっています。

このような働き方にはワーク・ライフ・バランスや柔軟な働き方といった肯定的な名がついている場合もありますが、本人のモチベーションは低下しますし、メンタルにも影響します。母親になった社員に対する配慮という名の差別ではないかという点は検討すべきところです。

 

見えづらい「相対的」貧困、コロナによる影響も

このような日本の働き方の結果として女性の貧困があります。

日本の相対的貧困率は15.4%あり、人口の6人に1人は貧困と言われています。貧困には2種類あります。社会全体で飢餓に苦しんでいるといった絶対的貧困に対し、相対的貧困というのは社会全体で収入所得の中央値の半分以下を指し、非常に見えにくいという特徴があります。

そしてこの相対的貧困が特に高齢女性の間で増えてきています。原因としては、今まで非正規雇用で働いてきた女性が高齢になって働く機会がなくなることが考えられています。

その予備軍とされるのがシングルマザーです。日本のシングルマザーは8割が就労をしおりOECD諸国では上位です。そのように皆一生懸命働いているにも関わらず、母子世帯の5割が貧困となっています。

コロナ期にはシングルマザーの7割に収入の影響があったことが分かっており、またコロナによる影響の一つに小学生の体重が減ったというデータがあります。これはもともと小学校の昼食で栄養をとっていた子供が休校になって栄養が取れなくなったこと、そして女性就労の機会が減り収入が減った結果として食べるものが不足したことがあげられています。

 

ケアワークから離れられない女性、主たる稼ぎ主の立場を降りることができない男性

いくら働きたいと望んでも、いくら働けと言われても、女性がケアと呼ばれる家事、育児、介護から離れることができていないのが現状です。そうすると非正規雇用を選択せざるをえない、それが経済的貧困のリスクにつながっていきます。

一方、これは女性の問題だけではなく、男性にとっても「主たる稼ぎ主の立場を降りることができない」ということになり、長時間労働による時間の貧困が問題となっています。特に単身男性の場合は親の介護に携わることを考えた際、働き方に行き詰まる未来がもうそこまで来ているという状況です。

そういった日本の状況を鑑みて、私達が今どのようにして本来的な男女共同参画社会を作っていけるのか、これからも皆で一緒に考えていただきたいです。

 

4つのワークと幸せ

最後に、イギリスのチャールズ・ハンディという学者が提唱している4つのワークという考え方があります。

これは収入を得るための有給ワーク、学んだり学校にいかずとも読書や勉強会に参加するなどの学習ワーク、そしてボランティア・NPO・社会活動といったギフトワーク、最後に家庭の中で無償で行う家庭ワークになります。

この4つのワークのバランスをとっていくことが人間の本来の生き方の幸福につながっていくと提唱されているものです。

これらのバランスをとっていくのは現実問題として難しいところもありますが、社会全体の在り方として誰しもがこの4つのワークの選択肢を持てるような社会を作っていくことも、これからの日本の未来にとって大切なことなのではないでしょうか。

 

参加者とのQ&A

- やらなければならない課題がたくさんある中でどこに一番フォーカスすべきでしょうか?

ここまでくると個人の力では解決できるものではないので、国の中の税率や保障、法制度の見直しが必要であり、そのためには女性議員を増やすことが大事だと考えています。
また女性管理職を増やすということも大切です。これまでの「安定的な人生」から一歩外に出ている人達の意見を聞く機会を意識的に持っていくことが大事なのではないでしょうか。
働きづらさを抱えている人はさまざまで、女性だけではありませんが、最たる人たちがシングルマザーをはじめとした女性たちなので、女性の働きづらさを解決すれば他の人達の課題も解決できるのではないかと考えています。

 

- 海外と比べて何が日本という国の難しさなのでしょうか?

日本の家族観の影響により、「家族の問題は家庭の中で解決しないといけない」という暗黙の価値観が色濃く残っていると思います。その最たるものが家事育児で、例えば小学生の持ち物に名前をつけたり、毎日の宿題も家庭で親が見るという前提になっています。ケアは家庭で母親が担うのが当たり前であり、女性自身も家事・育児を担わないといけないと思っている。しかし現実問題として、完璧な家事・育児と完璧な仕事を両立させることは誰にとっても不可能です。こうした家族観は日本の女性の活躍を阻む一つの要因になっているのではないでしょうか。

 

- 4つのワークの相関関係やバランスの取り方などはありますか?

人生の中で色々局面があるのでいつもバランスをとらないといけないわけではないと思います。人生全体の中で、あるいは一人ではなくて家族の中で上手くシェアするように意識することが豊かさにつながるのではないでしょうか。
また男性のギフトワークの貢献度が日本は低いという傾向があり、働き方と関連しています。PTAなども働いていると参加しにくいことがあるので組織の見直しが必要なのではないかと思います。

 

- 社会全体でマインドセットをシフトしていくにはどうしたらいいと思いますか?

例えば皆が16時に帰るなど、長時間労働を辞めてみるのはどうでしょうか?法制度などを変えるには時間がかかりますが、企業単位でできることもありますよね。みなさんがそれぞれの立場で、個人の努力は十分にしていると思うので、もっと大きな意思決定や大胆な動きが必要だと考えています。

 

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