World in You × Org」は、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺い、学ぶWorld in You の対談シリーズです。

12~1月にかけて3回のWorld in You × Orgでは、「子どもと未来が楽しみになる、孤立しない社会を地域で生み出す」活動に取り組む3団体のお話を伺いました。

 

第16回は、NPO法人チャリティーサンタ代表理事の清輔(きよすけ) 夏輝さんにお話を伺いました。

本記事は対談のまとめ記事です(Q & Aは含まれておりません)。
(聴き手:山本未生、記事:小沼瑠美、山本未生)

 

 

子どもたちに、"誰かが見守っているよ"というメッセージを

清輔さん(以下、敬称略):

私たちチャリティーサンタは、2008年、サンタクロースがお家を訪問する活動から始まりました。

この写真は、クリスマスイブにサンタがお家に来て、子どもたちが歓喜している様子です。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

この後、子どもたち一人ひとりに、この一年頑張ったことやできるようになったことをサンタが伝えます。プレゼントももちろん届けるのですが、「君のことを見守っている人がいるよ」、「誰かがどこかで見守っているよ」ということを伝え、頑張りを褒めることを価値としています。

その様子がわかる映像があるので、よかったらみてください。

 

 

二人の出会いから始まった、日本発のサンタクロース支援

この活動は、私とある女性の出会いから始まりました。彼女は、ピースボートに乗ったのをきっかけに子どもへの支援がしたくなり、僕は、子どもの頃にサンタが来たのがすごく嬉しかったことから、「日本でサンタクロースを通じたチャリティができるんじゃないか」とひらめいたのが2008年でした。

 

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

はじめは、子どもを喜ばせたい保護者を募り、各家庭でプレゼントを準備してもらい、一家庭3000円寄付していただく仕組みにしました。そして、私たちが、サンタに扮するボランティアを集めて、研修を受けてもらい、彼らがプレゼントを届けに行きます。集めた寄付は、当初途上国の子どもたちへの教育支援を考えていましたが、東日本大震災などをきっかけに、今は国内の子どもたちを対象にしています。

 

 

サンタになった大人たちの感動が全国に広がる

サンタ活動を続けて一番驚いたのは、サンタをやった大人たちが感動するということです。子どもたちは喜ぶだろうとは思っていましたが、大人がすごく感動するのです。

その結果、全国各地に支部が増えていき、今でも毎年3~5カ所ほど支部が増え続けています。
2024年度現在、全国44カ所に支部があり、約2,000人のサンタがクリスマスイブに、各家庭、保育園、幼稚園、習い事の教室も含め、1500軒へプレゼントを届けます。これに他の活動も加えると、延べ数十万人の子どもに活動を届けています。

 

 

ミッションは"愛された記憶を残すこと" ― 困難な時を乗り越える力に

ミッション、ビジョンは何年かに一度ブラッシュアップしています。

ミッション(私たちの想い、何のために活動をするのか):子ども達に愛された記憶を残すこと
ビジョン(叶えたい社会):子どものために大人が手を取り合う社会

大変な時とかくじけそうな時や頑張り時に、ある思い出や誰かの言葉に励まされて頑張れる、という経験がある方は多いと思います。

子どもにとっても、思い出される、励まされる記憶があると、必要な時にくじけないでやっていける。それを言い換えると、私たちは「誰かに愛された記憶を残していこう、それを子どもに届けていこう」ということを大切にしています。

 

 

数十万人の子どもたちへ、広がり続ける支援の輪

組織の規模としては、フルタイムが10名で、来春にさらに人が増えます。
事業規模は、2023年度は1億3000万円で、今年は約2億円になる予定です。法人からの企業協賛や寄付もいただいていますが、多くの個人寄付者に支えられています。

年間の利用者数は、私たちに直接申し込みをいただく家庭では、子どもの数で約1万人で、毎年増え続けています。
これに加えて、全国の他のNPOさん約300団体と連携をしていて、彼らを通じてリーチしている主に困窮する子ども達は約10万人います。

 

 

調査から見えた本当のニーズ ―「思い出」を届けることの大切さ

10年前にNPO法人化をし、その頃は、クリスマスの活動のみ行っていました。サンタ活動で届けた子どもたちが1万人になったタイミングで、ETIC.の社会起業塾に参加し、IIHOEの川北さんに助言をもらったのです。
「これを拡大していくことが君たちがやることなのか?」と言われて、「もちろん拡大していきたいです」と答えました。すると、「その前にやることがあるだろう」と言われ、「この1万人の子どもたちのことを君たちがまず誰よりも知りなさい、調査しなさい」と言われました。活動へのフィードバックのアンケートは毎年必ずやっていましたが、顧客調査をしたことがなかったので、このタイミングで初めて実施しました。

そこでわかったことは、当時私たちが活動を届けていた家庭は、比較的余裕があり情報感度が高い家庭が多く、困窮家庭に届けられていない、ということでした。

一方で困窮家庭に必要とされていないのか調べるため、主にシングルマザーの家庭への追加調査を行いました。すると、自由記述欄にたくさんのコメントが書かれていました。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

200~300のコメントの中に頻出する単語が「思い出」でした。
「思い出を作ってあげたい」、あるいは、思い出という表現でなくても、「長期の休みに子どもたちに何もできていない」、「家族旅行なんて行ったこともない」など。

クリスマスには、プレゼントやサンタなどいろいろな側面がありますが、私たちに求められていることは、「思い出」なのだと、ハッと気づかされたのです。

そのような経緯で、先述のミッションに変わっていったのです。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋

 

 

見えない格差 ― クリスマスが「来てほしくない日」になる現実

私たちに求められているのは思い出なんだと捉えると、見える世界が変わっていきました。

「クリスマスなんて来なければいい」という声もありました。

クリスマスの日に子どもたちが保育園や学校で、サンタさんに昨日何をもらったかという話を無邪気にします。その輪に入れなくて悲しい思いをする子がうちの子だと。中には、プレゼントをもらったと嘘をついている子どももいる。

「いい子にしていたらサンタが来る」と言われている日本では、サンタが来ないと、「自分は悪い子だからサンタが来なかった」と思ってしまう。でもそんなことは全くなくて、ただ保護者に余裕がなくて、叶えられない。

「今年は12月25日がもう冬休みに入ってて(子ども同士で比較しないので)よかった」という声もあります。

2015年は、子どもの貧困が言われ始めた頃で、私たちも、クリスマスにも格差があり、子どもの貧困が影響していることに気づき、手を打っていくことにしました。

シングルマザー100人に聞く調査をしたところ、3人に1人は「クリスマスなんて来ないでほしい」と思っていることもわかりました。この調査が新聞やテレビに取り上げられ、次につながりました。今でもクリスマス関連でこのデータが参照されることがよくあります。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

 

「寝たくない」と言った7歳の子 ―初めてのクリスマスに込められた思い

これは、私がサンタとして、児童養護施設に併設されているショートステイ施設を訪問したときの様子です。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

児童養護施設にも施設間の差があり、クリスマスの予算がある施設では「今年3人目のサンタだ!」と言われることもありました。ショートステイは、普段は親と一緒に暮らしているけれども、安価に預けられる施設です。

その日は、4人の子どもたちが預けられており、喜んでくれたのですが、帰る時に「もう行かないで」と足にへばりついたり、全身で止めてくる子たちがいました。
翌日ボランティアの方に話をきくと、7歳の子は、生まれて初めてクリスマスのお祝いをしたと。夢みたいな日が「寝て朝起きたら全部夢だった」となるのが怖いから、必死に夜寝ないようにしていたと。

今まで、サンタが来るまで寝ないで待っている話は沢山きいたことがありました。でもサンタが来たのに寝たくないというのは、初めてでした。どういう状況でこの日ここに預けられたかはわからないけれど、間違いなくそういう子がいる。絶対にこの活動は広げていくぞと、強く誓いました。

他にも、大学病院の小児病棟、里親の子どもたちが集まるクリスマスの会、シングルマザーの方たちが集まるクリスマスの会、子どもの7人いるご家庭など、色々な家庭を訪れましたが、どこでもサンタクロースは喜ばれると感じました。

 

 

ブックサンタ ― 本屋さんとともに届ける楽しい寄付体験

ブックサンタは、全国の本屋さんと連携しているプロジェクトです。
最初は企業の協賛を募っていたのですが、年により変動が大きかったため、毎年安定的にプレゼントを確保するために、出版業界の卸会社とのご縁で、「リアルの書店で子どもたちに新品の本を買ってプレゼントとして寄付できるんじゃないか?」というアイデアが生まれました。

今では、全国の賛同する書店で、寄付者の方が送りたい本を選んで「ブックサンタしたいです」とレジに伝えるだけで参加できます。本の代金を払うと本はそのまま書店に預けられます。集まった本を私たちで管理、選書をしながら、最終的に子どもたちにサンタが届けたり、全国の団体さんと連携してクリスマス会でお渡ししています。寄付者の方にもご報告を毎月続けています。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

このような声が集まっています。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

皆がハッピーな仕組みになっていると思います。書店にとっては売り上げにつながりますし、寄付者の85%は書店経由以外から来ており、チャリティーサンタを通じて知る方が多いことも、書店に喜ばれます。
クリスマスは行政などの支援が中々ないため、連携団体や家庭にも喜ばれます。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

寄付者にとっても楽しい寄付体験になるというのが、すごくポイントであるということは、やり始めて気づきました。子どもたちに届けることがメインなのですが、寄付者が主役になる楽しい寄付体験を設計することにも、重きを置いてプロジェクトをつくっています。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)

 

広報に関しては、ブックサンタ単体だけで去年は84回以上メディア掲載されました。(1つの取材が複数の媒体に転載されるのを除き、オリジナルの記事だけでカウント。)全国紙はもちろん、各地方紙にもアプローチしていて、テレビでもさらっと流れるよりは、7~8分特集されることを狙い、特集を組まれるような構成で私たちから提案しています。

参加する書店は最初は1法人でしたが、今年は約1900店舗で、日本の書店の3分の1が参加しています。主要な書店チェーンはほとんど参加しているので、皆様のご自宅の近くの書店はほとんどが参加している可能性が高いです。店舗数の広がりにあわせて、寄付冊数も増え続けています。

(チャリティーサンタ プレゼン資料より抜粋)