World in You × Org」は、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺い、学ぶWorld in You の対談シリーズです。

今回は韓国の非営利団体Root Impactの活動をご紹介します。DEI Initiative Team LeadであるJonghun Sunさんをゲストにお迎えしました。

本記事は対談のまとめ記事です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。
(聴き手:山本未生、記事:本多百音)

 

日韓のジェンダー平等の現状

日本と韓国は、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数で非常に低い順位を占めています。韓国が94位、日本が118位と、特に女性の経済・政治参加が課題視されています。この現状を受け、両国の課題や成功事例を共有し、学び合うことが本イベントの目的の一つでした。

(出典:Global Gender Gap Report 2024)

 

(出典:Global Gender Gap Report 2024)

 

Root Impactの取り組みと使命

Root Impactは、社会課題解決を目指す非営利の中間支援組織です。私たちは自分たちのことを「チェンジメーカーのためのチェンジメーカー」と呼んでいるのですが、ソーシャル・インパクトを推進する組織や個人を支援することで、持続可能な未来を創造することを使命としています。
これまで10年以上にわたり、私たちは「インパクト・エコシステム」を構築し、その中で多様なプレーヤーが協力し合い、相乗効果を生む仕組みを作り上げてきました。その取り組みを、以下の4つのテーマに基づいて展開しています。

①インパクト志向のコミュニティオフィス:Hay Ground

Hay Groundは、社会課題に取り組む団体や個人のための会員制オフィスで、これまで300以上の団体が利用しています。教育、気候変動、貧困、障害者支援など多岐にわたるテーマを持つ組織が集まり、強力なコミュニティを形成しています。

②キャパシティ・ビルディング(能力開発)

非営利団体やインパクト志向の組織を対象に、成功のためのスキルやリソースを提供しています。

  • リーダーシップ・トレーニング「Hey Leaders」: 非営利団体のリーダー向けに提供される研修プログラム。
  • AIスキルトレーニングやビジネス講座: 団体が持続可能な経営資産を築くための支援。

③インパクト志向のキャリア支援

若者がソーシャルセクターでキャリアを築けるよう支援しています。

  • トレーニングプログラム: ソーシャルセクターでの仕事を目指す大学生を対象に、就職に必要なスキルを育成する。
  • キャリアマッチングサイト: 影響力ある団体の求人情報と若者をつなぐプラットフォーム。

④インパクト・フィランソロピー(社会的影響を重視する資金提供)

ドナーとインパクト志向の団体を結びつけ、最大の成果を生む資金提供の仕組みを運営しています。

  • ファンド設立: テーマごとに異なるドナーから資金を調達し、特定の社会課題に取り組む団体に提供。
  • 成功事例: 最初のインパクトファンド「IP1」は、非営利団体の財政的支援とビジネス基盤構築を支援。フェローシップ期間中には個人の助成金も提供。

 

Root Impactの新たな挑戦~DEIイニシアチブ

Root Impactは過去10年間、社会課題解決を目指して「インパクト・エコシステム」の構築に尽力してきました。この取り組みでは、様々な分野の団体や個人をつなぎ、協力を促進する仕組みを築いてきました。そして2024年、これまでの成果を土台に、3つのインパクト・テーマを厳選し、重点的な取り組みを始めました。

その重点テーマのひとつが、DEI(多様性・公平性・包括性)イニシアチブです。この取り組みでは、職場や社会におけるジェンダー格差や多様性の欠如といった課題に焦点を当てています。

ガラスの天井指数の現状
エコノミスト誌が発表した「ガラスの天井指数」によると、韓国は職場におけるジェンダー平等の達成度で最下位にランクされています。また、出生率の低さも深刻な課題であり、このままでは韓国社会の持続可能性が危ぶまれるという指摘もあります。

チャイルド・ペナルティへの対策
特に注目されているのが、子どもを持つ女性がキャリアの中断を余儀なくされる「チャイルド・ペナルティー」の問題です。韓国では、30代から40代の女性が子どもを産むことで、キャリアが14%高い確率で中断されるという調査結果があります。これに対し、Root Impactは職場環境の改革に取り組んできました。

具体的な取り組み

1. 職場内託児所「Forest for All

働く親が子どものケアとキャリアを両立できる職場環境を整備することを目的に、30以上の企業が資金を出し合い、コンソーシアム形式で運営する託児所を職場内に設置しました。この託児所では、これまで69人の子どもが利用し、30以上の企業の親たちがキャリアを維持しながら働き続けることを可能にしました。

2. 「キャリアが中断された女性」から「経験豊かな女性」へ

出産や育児で職場を離れる女性に対する偏見をなくし、復職をサポートするために、新しい概念を社会に普及させました。

  • 法案成立: 出産や育児で職場を離れた女性は「キャリアが中断された」というネガティブな表現で呼ばれていましたが、政府と連携し、これを「経験豊かな女性」と改めることで、制度的な変化を促しました。
  • 研修プログラムRE:BOOT CAMP: 8期にわたる研修を提供し、30人以上の女性が復職。修了者の60%以上が再び職場で活躍しています。

3. DEIラボの設立

職場文化の改革を目指し、組織のリーダーや人事担当者が互いの実践を共有し学びあうDEIラボや、調査研究、研修プログラムも開始しました。

  • 内容: DEI文化の重要性や、インクルーシブな職場環境を作るための具体的な方法を学ぶ場を提供。
  • 成果: 参加組織は非常に満足しており、自主的に組織改革を進めるケースも増えています。

 

DEIイニシアチブの長期目標

①インクルーシブな職場インフラの整備
職場内託児所をはじめ、家族を受け入れる環境の整備を推進します。これにより、多様な人材が活躍できる職場を作り上げます。

②DEIムーブメントの創出
多様性をコア・バリューとする文化を組織全体で根付かせるため、研修や啓発を通じてムーブメントを広げます。

③政策への影響力強化
政策変更や規制強化を通じて、ジェンダー平等や多様性を支える基盤を確立する。持続可能な社会変革を目指します。

 

日本と韓国の比較について

日本でも、韓国と同様に、女性の職場復帰や子育ての支援が課題となっています。日本政府は2015年に「女性の職場参画と地位向上の促進に関する法律」を導入し、出産後の復職や包括的な職場環境の整備を企業に促してきました。最近では男性の育児休暇取得が推奨され、家庭と仕事のバランス改善を目指す動きが見られます。
COVID-19の影響により、家庭での役割分担や働き方が見直され、一部の家庭ではパートナー間の関係が改善されるなどの変化も起きています。ただし、依然として文化的な価値観や社会的な期待が壁となっており、持続的な変革には時間がかかるとされています。

 

Q&A

—女性の労働環境を変える上での最大の課題は何ですか?

最大の課題は、経営陣や社会全体の意識を変えることです。韓国では「チャイルド・ペナルティー」として、子どもを持つことで女性のキャリアが中断される現象が深刻です。仕事と生活を分けられないものとして捉え、育児経験が職場でも活かせるという考え方を広める必要があります。

 

—DEIやジェンダーの枠組みに対する固定観念をどう変えますか?

DEIは文化や政治的問題と結びつけられ、多様な解釈が存在するため、誤解を解き、広く理解を促す取り組みが必要です。女性自身が「キャリア中断」ではなく「キャリア経験」として育児を肯定的に捉える意識も大切です。

 

—日本や韓国でどのような研究が必要ですか?

家庭での経験や育児スキルをキャリアとして評価する枠組みを構築する研究が必要です。育児が職場での問題解決能力につながることを示し、家庭での経験を職業的能力に転換する方法を探ることが重要です。

 

—韓国におけるインパクト投資の状況とRoot Impactの役割について教えてください。

韓国でのインパクト投資は非常に新しい分野であり、これまでの寄付やチャリティとは異なるアプローチです。ターゲットとなるのは、比較的若い世代の慈善家や、成功したばかりのビジネスリーダーです。Root Impactは、彼らに長期的な社会的インパクトを重視した寄付や投資の可能性を教育し、コンサルティングを提供しています。ただ単に多額の寄付を求めるのではなく、投資の効果を最大化するための計画や調査を通じて、寄付者が持続可能な影響を与えられるようサポートしています。

 

—若い世代はDEIやジェンダー問題に関心を持っていますか?

ジェンダーやDEIに対する関心は個々人で異なります。ジェンダーや性的アイデンティティ、多様性に関連する他のテーマに焦点を当てる人もいますが、ビジネスリーダーやインパクト投資家が公式にDEIを支持している例はまだ少ないです。この分野の啓発と意識向上には、さらに多くの取り組みが必要です。

 

—なぜ中小企業と連携するのですか?また、どのように変化を促していますか?

中小企業と連携する理由は、彼らがアクセスしやすく、文化的な価値観を共有しやすい存在だからです。中小企業は規模が小さいため、説得しやすく、強力な提携を結びやすい利点があります。一方で、DEI(多様性・公平性・包括性)は中小企業にとって「贅沢品」のように捉えられることもあり、課題が残ります。これを克服するには、DEIが持続可能なビジネスの基盤であることを理解してもらう必要があります。

 

—地方と都市部での女性の復職支援に違いはありますか?

韓国では人口の多くがソウルに集中しており、これまでの支援も首都圏を中心に行われてきました。しかし、地方では文化や経済的背景が異なるため、女性が復職する際に直面する課題も異なります。地方の意思決定者が持つ文化的価値観に適応したアプローチが必要で、地域特有の問題に対応する支援が求められます。

 

—地方都市の女性支援にどのような取り組みが必要ですか?

地方都市では、父権的な文化が根強く、女性が職場復帰に自信を持てない場合が多いです。そのため、仕事に関するスキルだけでなく、日常生活や家庭で使えるスキルを学べるセミナーを開催することが効果的です。例えば、コンピューターやIT技術、人前で話すスキルなどを教えることで、女性たちが自信を持ち、企業に自分を売り込む力を養います。また、小規模な企業と女性をつなぐイベントを通じて、地域の有能な女性人材が発見される仕組みを構築しています。

 

—韓国における未婚化や少子化の理由は何ですか?若者も同じように感じていますか?

韓国では、女性が伝統的な家族責任と現代的なキャリア志向の双方を抱え、「二重の負担」に直面しています。教育を受けた女性たちは、職業を持つべきだと教えられる一方で、家庭での役割も求められています。このため、結婚や子どもを持つことがキャリアとの選択を迫られる状況を生んでいます。これにより、結婚や出産を避ける傾向が強まり、少子化が加速しています。
さらに、ソウルにおける不動産価格の高騰や教育費の負担も、家族を持つことの障害となっています。これらの経済的な要因が加わり、若者にとって結婚や子育てが現実的ではないと感じられています。このような背景が、韓国の未婚化や少子化を特徴づけています。

 

 

Jonghun Sun さん、Root Impact DEI Initiative Team Lead (Ph.D.)

Root Impactについて

Root Impactは、2012年に韓国で設立された非営利団体で、社会的および環境的な問題を革新的に解決するチェンジメーカーを発見し、支援しています。チェンジメーカーの成長のために持続可能なエコシステムを育成し、公正な未来の教育、持続可能な都市、多様性がありインクルーシブな職場を実現する取り組みを行っています。

主なプロジェクトとして、ソーシャルベンチャーや企業などのインパクト志向の組織向けのコミュニティオフィス「HEYGROUND」、若者がインパクトキャリアを始め活躍することを支援する「impact.career」、インパクト優先の資本とインパクト志向の組織をつなぐ「Impact Philanthropy」があります。

Root Impactはまた、*経験豊かな女性のための「Re:Boot Camp」や、ソーシャルベンチャー向けのデイケアセンター「Forest for All Daycare Center」も運営しています。

*Root Impactは、子どもを持つ女性が韓国で公的にcareer-disrupted women(キャリアが中断された女性)と呼ばれていることを批判し、それに代わるwomen with experience (経験豊かな女性)という呼称を使うことを提唱したアドボカシーも行っています。

 

 

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