World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。

その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。本記事はその対談の要約です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。

第1弾は、非営利型株式会社Polaris創業者 市川望美さん、現代表 大槻昌美さんにお話を伺いました。(聴き手:三代祐子)

 

立ち上げの想い~今はなくても将来当たり前になる働き方をつくろう

(市川)
Polarisは、「未来におけるあたりまえのはたらきかたをつくる」を掲げて事業を行う非営利型株式会社で2011年から事業開始、2012年に法人化しました。

市川・大槻とも、出産を機に離職し、子育て中心の生活をしていましたが、子育て支援NPOに関わることで新しい役割を得て、「働く」というイメージもいい意味で変わりました。育児中や離職した人でも働きやすい仕組みをつくりたい、差し出す時間に関わらず面白い仕事ができるようにしたい、子どもたちの未来の選択肢を増やしたいという想いから、今はなくても将来当たり前になるような働き方をつくろうと、Polarisを立ち上げました。

Polarisは「誰かと共に」を大事にして事業をしています。スキルを持ち独り立ちすることではなく、チームで働く。受け止めあい活かされあう風土、仕事をするだけではない空気感をつくりたいと思っています。働くことで自分が活かされ喜びになるようにと。たとえば、コワーキングスペース co-baと事務所を合併・移転した時は、ワークショップスタイルでPolarisのメンバーやその家族、co-baの会員、クライアントの方も含め皆で壁を塗ったり机を作ったりしました。

 

5人で共同経営、200名の業務委託メンバー

(市川)
5名で共同経営しています。個性はバラバラでぶつかることもありますが、ユニークさを活かし、事業を拡げていきたいと思いやってきました。
多様で柔軟な働き方をしていきたいという想いから雇用はせず、業務委託でやれることをつくっていこうという発想です。プロジェクト毎に業務委託で関わるメンバーが今約200名で、そのうち約20名が事業や組織の運営にも関わっています。以前は、業務を担当していなくても参加できる居場所的なメンバー間のコミュニティ機能をもっていた時もあり、約500名メンバーがいた時期もありました。

 

創業者が引っ張る時代を終えフォローワーシップ経営へ

(市川)
創業期の代表は市川でしたが、組織の成長にあわせて代表を交代したいという考えは設立時からありました。ビジョン重視の創業者が引っ張る時代を終え、もっと人が関わりやすくフラットな組織を目指そうと、「距離が近く」、良い意味で「わきの甘さ」をもつ大槻に2016年に代表交代し、フォローワーシップ経営を実験してきました。

 

事業性と社会性を両方大事にした事業づくり

(市川)
ミッションは、「働きにくさ」という社会課題に向き合いながら、事業価値と社会価値、両方の実現を目指すこと。ビジネスとしても成長し、かつ、社会的に意味のあることをやる。これを人や組織、働き方にまつわることについてやってきています。

事業には、自主運営事業とクライアントからの委託運営事業があります。

自主運営事業としては、ワークシェアコミュニティ事業として、セタガヤ庶務部として始まった事業をリニューアルし、CoHanaという事業伴走支援サービスをしています。海外在住者含めてメンバーでコミュニティをつくりながら、クライアントのバックオフィス業務などをワークシェアしています。

次に、「仕事」を通した町のコミュニティづくりの事業では、多様なはたらき方に出会えるようなイベント、起業塾、コワーキングスペースの拠点作り・運営をしています。京都の企業と連携して子連れコワーキングの実証実験をこれまで行ったり、世田谷区のシニアの就労マッチング(R60-SETAGAYA-)などを現在やっています。もともと「育児中で働きやすい=誰でも働きやすい」という仮説があり、それはシニアの方々についても当てはまる点も多いです。

委託運営事業としては、大企業から請け負い、サードプレイス型コミュニティの企画・運営をしています。コミュニケーションデザイン、コミュニティマネジメントを、地域雇用をつくりながらやっています。売上比ではこれが1番大きな事業です。

くらしのくうき(地域情報コンシェルジュ)事業は、大手ディベロッパーと組み、地域の子育て経験者が、その町へ引っ越してマンションを購入する人に町の様子を伝えるサービスです。その地域に住んでいるから、子育て経験があるからこそできる仕事をつくっています。

また、学び事業「自由七科(じゆうしちか)」も自主運営事業です。多様で柔軟な働き方がいいといっても、現実には面倒だったり難しいこともあります。そのため、自由に生きるための知恵に出会う学びの場を開いています。

 

分離してきた「暮らし」と「働く」を統合しよう

(市川)
「暮らす」と「働く」がつながる「Loco-working」の旗を掲げてやっています。そのまちの人だからできる仕事だったり、仕事をきっかけに新しいつながりが生まれていったらいいなと。
コロナが追い風になった面もあって、在宅勤務が増え、まちのプレイヤーが変わったことで、このLoco-workingの考え方はより多くの人にイメージしやすくなったと感じています。

Loco-working は、Local、 Co-、 Workingの言葉が合わさっており、「共に」(Co-)には、愛着と誇りを持ちみんなで関わりあっていく想いが込められています。省エネで持続可能な価値循環が、仕事をきっかけに起き、地域の色々なことを包摂できると考えています。
制約があってもそれぞれが自分らしく働ける、色々な人と出会う面倒臭さを受けとめながらだからこそ生まれる価値に出会っていく、まちに愛着を持つ人が増え、ジブンゴトが増えていく、そういう価値づくりを通じて、新しくなっていく資本主義に応えていきたいです。


(Polarisプレゼン資料より抜粋)

課題にソリューションをぶつけるのではなく、価値に変換する

事業をつくるときには、課題を価値に変換していくようにしています。「ママさんたちをスキルアップ」「させて」どこかに就職「させる」のではなく、育児離職した女性がキャリアブランク期間に体験したことをビジネスとして次に活かす。そもそも「キャリアブランク」ではなく、そこが価値なんだというように、課題に対してソリューションをぶつけるのではなく、違うところから事業をつくってきました。

神は細部に宿ると思っているので、言葉へのこだわりを大事にしています。例えば、こちらのnote記事にあるように、「ママ」という言葉をできる限り使わないなどです。

 

非営利型株式会社という経営スタイル

(市川)
非営利型株式会社とは、利益を配当として分配せず事業に再投資すること、解散時は出資額を除いては想いを引き継ぐ団体に寄付することを定款で定めた株式会社です。登記上は株式会社であり、税制優遇はありませんが、利益追求ではなく実現したい世界のために仲間になってもらえるよう、この選択をしました。
株式会社を選択した理由は、①地域×女性のことをやっているとボランティアだと誤解されやすいので、小さくても事業価値を正しく伝えられるようにするため、②将来の出資を受けることもできるように、③意思決定を迅速にできるように、という観点からです。
非営利を名称につけているのは、達成までに時間がかかることでも、事業として取り組みたい、社会的に意味のあることをやりたいためです。
市場と社会の両方へ働きかけていく上で、非営利型株式会社という名称は会話の良いきっかけにもなっています。

 

動かないけれど、移り変わる星であろう

(市川)
Polarisは北極星という意味で、動かない星として知られていますが、実は大きな時代の流れにおいて、北極星を担う星は移り変わってきました。現在の北極星はPolarisですが、過去はこと座のベガが北極星でしたし、未来ははくちょう座のデネブが北極星になります。不変であることと可変であること。私たちも、信念は大事にしながら、組織も事業も変化し続けることで、Polaris自身が社会実験であり、もう一つの事業成果であれるよう、進んでいきたいと思います。

 

- 現代表 大槻さんは、どんな想いやこだわりを持って今取り組んでいますか?

(大槻)
一人ではなく誰かと一緒にやり遂げるという信念に、Polarisの面白さがあります。設立から10年、多様な働き方の選択肢が増えてきた中で、Polarisは面白い、違うものに出会えると思ってもらえる組織であり続けることが必要で、良い緊張感を持っています。どのプロジェクトでも自分を出しやすいと思ってもらいたいと心がけています。

 

- チームで経営、キャリアブランクを活かす、働くと暮らすを統合するなど、理想的だなと思う一方で、難しさを感じるところはありますか?

(大槻)
どれだけ働くか、暮らしを大事にするかは、自分でベースを持っていないと、つい働きすぎたり我慢してしまうところが出てきます。業務委託メンバーが、今はこうしたいということに自分で向き合えてそれを言える環境をつくれるかがポイントです。

(市川)
個別性に寄り添いたいが、それだと再現性がなく事業性がないという葛藤があります。でも、寄り添うところは手間やコストをかけるようにしています。

 

- 大手企業との委託事業では互いにどんな期待値・関係性がありますか?

(大槻)
新規事業担当の方とお仕事することが多いですが、目指すところを一緒に描くうちに事業が見えてくることが多く、その道中はときに茨の道であり混沌としています。良い場にしたいということは常に伝えながら進めています。

(市川)
新規事業の方はミッションや想いを持ってやっている方が多く、Polarisの面倒くささとも向き合ってくれるパートナーという感じがあります。

 

- ここ10年で「あたりまえをつくる」を特に体現できたと感じることは?

(大槻)
社会の流れもありますが、働く場所に縛られないことが当たり前になってきました。コロナで男性の在宅が当たり前になり、在宅の現実を体感してもらうことは大きいことだと思いますが、ただ単に家で仕事ができればいいというものではない、働く仕組みや環境が大事であるということは改めて感じているところです。

(市川)
設立当初、「心地よく暮らし働く」を掲げると、「仕事とはそんなものじゃない」とお叱りを受けることも多かったのですが、ここ10年で「心地よさ」に込めた想いもずいぶん伝わるようになりましたし、個人一人ひとりと組織との関係性の問題も、ウェルビーイングや健康経営などの広まりもあって扱いやすくなりました。

 

- これから取り組んでいきたいことは?

(大槻)
より幅広い人と取り組みたいので、業務委託形態で事業をいかに大きくしていくのかがチャレンジです。どういう働き方が良いのか、組織がメンバーに対して守れるものは何かなど、さらに探っていきたいです。

(市川)
メンバーシップ型からジョブ型への移行が進むと、空間的に離れた人々や、多様なライフスタイル、価値観、前提を持つ人々がどう一緒にやっていけるか、マネジメントや評価、処遇、コスト負担、コミュニケーションのあり方など、現実レベルで考えるべきことが沢山出てきますが、これはPolarisがこれまで直面してきたことでもあります。これから多様な人たちと多様なやり方を目指す組織の人たちに私たちが貢献できる点があるかもしれません。人が組織とどう関係しあいながら働くのか、何があれば壁を越えていけるのかということに強い関心があります。

 

- 業務委託200名となったときに、当事者意識をどう持ち続けるかなどスムーズにいかない面もありそうですね。

(市川)
どうやったら色々なものが混ざり合い一緒にやっていけるのか、解き明かし、創業者としてもPolarisの実績を社会還元していきたいです。

 

- これまで都市を中心にPolarisが取り組んできたことが、地方に活かせる点などもあるかと思いますが、どう思いますか?

(市川)
地方と都会では、選択肢の数など前提としている条件が違います。また、地方では誰がどこに住んでいるかをお互い知っていますが、でも、その人が本当に何がしたいかまでは知らないこともある。それがPolarisが開催してきた座談会などを通じて、知り合うことにつながったりします。

(大槻)
地方の方々が直面している「制約」には、Polaris立ち上げ時に扱っていた課題に似たものがあり、働き方の選択肢をつくる提案などを今後していけると思います。

 

参加者とのQ&A

 

ー Loco-workingを経験した後に、起業した、再就職でキャリアを戻せた、働く筋力が保てて伸ばせたという人は、何割くらいいますか?

(大槻)
Polarisを経て、収入を増やしたい、もっと働きたい、起業したいと就職・起業する方が約2−3割います。

(市川)
キャリアへのインパクトというより、人生への納得感を得たり、焦りや不安が解消されるというインパクトのほうが大きいかもしれない。副業するメンバーが増えており、それも成果に入る。メンバーには、収入というよりは、この先の自分のやりたいことや、癒しや息抜きで人とのつながりを求めている人も多い。

 

ー 昨今困難な状況が際立つひとり親の方へは、何か取り組んでいますか?

(大槻)
特別そこに絞って求人はしていないが、事業にエントリーするひとり親の方はいます。

(市川)
私たちは、福祉的・直接的な支援ではなく、地域に関わる仕事を沢山作り、それをお母さんがやって、子どももそこに自然と繋がっていくようなことをしたいと思っています。専門的に取り組む方たちとも連携して、ひとり親の皆さんにも地域で機会を提供していけたらよいですね。

 

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