World in You Storiesでは、世界が少しでもよくなったらという想いで何かに取り組んでいる方、人生を生きている方を、世界のさまざまなところからインタビューするシリーズです。あなたの中の世界―world in you、と他の誰か・どこかの世界―world in someone、が出会うことで、お互いの世界がより豊かになる、そして、より良い社会につながっていく、そんな願いをこめてつくっています。

ストーリー第4弾は、World in Tohoku(WIT)時代からの協働支援先であり、共に学びあってきたNPO法人まんまるママいわて代表の佐藤美代子さんに、チームメンバーの飯田が聴きました。


話し手:佐藤美代子

NPO法人まんまるママいわて代表。岩手県盛岡市出身、岩手県花巻市在住。
助産師。2011年から助産師とママをつなげる産後ケア・産前産後サポート事業を開始。
現在4市から委託を受け、活動中。

 

 

聴き手:飯田晃介

保険会社にて営業職に従事した後、異業種のマーケティング業界へ転身。現在はリードナーチャリングから受注までを広くミッションとし、セールス領域の業務に関わる。2022年1月より World in Youに社会人プロボノとして参画。

 

本記事はインタビュー対談からの抜粋です。インタビュー全文はPodcastでお楽しみください。

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自分と同じ思いをさせないために、女性に寄り添い、支援を

 

―今、どんなことに取り組んでいますか?

岩手県花巻市をメインに北上市、釜石市、大槌町の4市町村で産前産後サポート事業、産後ケア事業を受託して活動しています。
私が代表を務めるまんまるママいわては、主に助産師、保健師などの専門職と有志のお母さんたちで構成される、妊婦さんや産後のお母さんのケアをする団体です。

 

―東日本大震災が現在の活動の端緒となったかと思いますが、想いを行動に移せたのはなぜでしょうか? 考えていても実際に行動に移すことができる人は多くないと思います。

東日本大震災の発生時、自分自身も被災者として、3歳と5カ月の子どもとおり、とても怖い思いをしました。
また、以前県立病院の助産師として務めていたのですが、そこでは公務員として震度5以上の地震があれば駆けつけることがお約束だったので、自分がその立場にいないことへの焦りがありました。
停電し、火も使えない過酷な状況ではありましたが、電気が復旧したタイミングでなぜかふと「支援したい」気持ちの方が強くなったんです。

とはいえ、実際に既に助産師として開業はしていたものの、被害が甚大すぎて、最初は何ができるのかイメージできませんでした。半分被災地半分支援側という感じだったのです。そんな中、沿岸の被災地から内陸に避難してきているお母さんたちがいるという情報がメーリングリストから流れてきて。病院で出産したお母さんを避難所の体育館に戻すわけにはいかないと、内陸から何か役に立てるかもしれないと思い、情報収集を開始したのがきっかけでした。

そこから、目の前にぶらさがる紐をひっぱり続けていった感じです。次はこれ、次はこれ、とやれることをひっぱり続けていったら、活動になったんです。

まんまるママいわての利用者の方と話す佐藤さん(左)

―そもそも、どのような背景で助産師を目指されたのでしょうか?

私は小さい頃、小児喘息でよく入院していたのですが、その時お世話になっていて大好きだった先生からの言葉が印象的で。「女性医師は少ないから、将来大きくなったら美代子ちゃんもドクターになってね」と言われたんですね。

それがきっかけで医師を目指すようになったのですが、中学生になる前辺りから、アトピーがひどくなり半年程の入院を三度繰り返してしまって。成績がガクッと落ちてしまったんです。そこでこのままでは医師になるのは無理だと悟り、看護学校に進んだ、という背景があります。

その当時は、コギャルブームが巻き起こっていたような時代で、性行動が活発な年代でもありました。それに伴って、妊娠・中絶・病気などを経験する友だちも多かったんです。
そんな中、看護学校に進み、女性の体の仕組みを勉強してはじめて、自分たちがどんなに危ない行動をしていたかを知りました。驚きと同時に、どうして自分たちの体のことなのに教えてもらえなかったのかと感じました。たとえば、妊娠して中絶したり、性感染症にかかって治療が遅れてしまった場合には、女性の身体が完全に元通りになるばかりではなく、それが原因で不妊症になってしまうケースもあるなど。こころとからだにも大きな負担がかかる。そんな、自分たちの体について知る機会が欲しかったと感じ、看護学校の先生に相談したところ、命の現場に立ち合う「女性の体のスペシャリスト」である助産師になることを勧められたんですね。
なので、元々赤ちゃんや妊婦さん、産後のお母さんのためにというよりは、性教育をしたいという想いで助産師になったんです。

 

―納得感がすごくあります。誰かの役に立ちたいという想いや、ご自身が経験して困ったことに対して改善のために行動を起こすということは、元からあったのでしょうか?

両親の離婚がきっかけでした。家父長制度だったこともあり、母親は家を追い出されてしまうなど、不遇な思いをしていたんです。私自身も、女性の立場が弱いことに強く憤りを感じていました。私たちは3姉妹だったのですが、「お前が男の子だったらよかったのにな」と、父や祖父に言われたこともありました。自分は女性として生まれてきたにもかかわらず、女性であることを否定され、「女、女性の人生って何なんだろうな」という思いがありました。

私自身は女性に生まれたことはよかったと思っているんです。一方で、女性の立場の弱さを感じることは、助産師になってからも何度も経験しています。だからこそ、女性を支援したい、女性に寄り添いたいという想いが私のモチベーションになっています。

 

―これまでの経験の中で、印象的なエピソードはありますか?

震災後に出会ったAさんという女性との出会いは今でも忘れられません。当時、Aさんは震災で住む家が流されてしまい、実家ではもともと生活保護を受けていた状態でした。そんな中、仲良くなった時にぽろっと「しんどい、と話せる相手が誰もいないんだよね。旦那は頼りにならないし、実家にも中々帰れないし」と打ち明けてくれたんですね。

その時、自分自身が育児でしんどい思いを経験したこととシンクロしたんです。同時に、当時しんどい思いをしている中、助産師さんの集まりで優しく声をかけてもらったことでどれだけ救われたかを思い出し、彼女にも、家族でも病院でもない斜めの関係、相談できる場所が必要だと思ったんですね。Aさんに関わり続けたい、会いに行き続けたいと思ったのが今の活動のきっかけの一つでもあります。

まんまるママいわての活動の様子

 

女性のエンパワーメントを叶えたい

 

―震災後からの10数年を振り返り、自分の人生にとって、あるいは世界にとって、どのような10年だったでしょうか? 

仕事のあり方、家族のあり方、全て変わった10年でした。素晴らしい世界への扉を開いた代わりに、諦めたものもありました。震災がなければ、こんなにも大きな活動をして、色々な人と繋がって、自分の知らなかったことをして、ということはなかったと思っています。一方で、本当は3人目の子が欲しいという思いもありましたが、「今このタイミングでは無理だな」と考え続けていたら10年が経ってしまいましたね。

世界、日本にとっては、震災、コロナ禍など、安定や安心が非常にもろいものなんだと思わされるような驚きの出来事の連続だったなと思います。世界はどんどん変化していて、私たちはそれに試されているような気もしています。だからこそ自分たちの軸がないとつらいと思いますし、お互い助け合っていくことが重要なんだと感じています。

 

―今後はどのような展望をお持ちでしょうか?

10年間の活動を通して、産後ケアのベースが少しずつできてきているので、これを私たち以外の人でもできるようにしたいと思っています。産後ケアが当たり前の文化ができた時には、次のステップへ進みたいと思っています。

次のステップでは、もっと若い女性をエンパワメントできるようにしたいですね。彼女たちの人生の選択をする応援をする仕事は何かないかな、と考えていて。やはり専門は女性の心と身体に関することなので、性役割、出産、結婚などの決定権を女性に取り戻すための活動をしたいという思いもあります。

 

―性教育に関する活動もされていくのでしょうか?

実は既に、長男が生まれた年から性教育・いのちの講演会を小中高で行っているんです。今後は、もう少し小さいグループで女の子と話ができるようなことに取り組みたいと思っています。

 

―小さいグループですか?

やはり、実際に困っていることを大勢の前で手を挙げては聞けないんですよね。講演後に「自分もLGBTQの当事者だと思う」「死にたいと思っていたが死ななくてよいと思った」「将来はお母さんになりたくないと思っていたが、佐藤さんのところでは産んでもいいと思った」などの感想をもらうので、もっと突っ込んで話をしたいなと思うことが多いんです。実際には、講演の壇上を降りるとなかなか相談に乗れる機会はありませんし、何かあったら連絡してねと伝えても連絡はこないのが現実です。

この現状を打破するためにも、自ら足を運び、結婚する前の中高生の男女に会えるような場をつくりたいなと考えています。お母さんになる前の男性と女性と出会いたいなと。

性教育に関する情報は、私が若い頃に比べて圧倒的に増えましたが、そもそも「人とのコミュニケーションそのものが怖い」「男女の交際が怖い」と思う若者が増えてきていて、また違う問題が生まれています。

 

World in Youとの出会いが世界への扉となった

 

―World in You/World in Tohoku(WIT)とのこれまでの関わりについて特に印象的だったことは何でしょうか?

南三陸でのラーニングジャーニーの合宿が特に印象的でした。まずは世界中の人達と出会えたこと、日本で活動している様々な団体さんと出会えたこと。そして何より、自分の団体のことをこんなにも一生懸命色々考えてもらえるんだと驚きました。改めて、自分の団体に関してアイディアを出すきっかけにもなりましたね。

2回目の合宿で、団体のラストを考えるワーク(エンドゲームを考えるワークショップ)をしたのですが、これが初めての経験で。非営利団体として、ラストを見据えた活動をしないといけないんだと気づき、どしんときましたね。それによって自分たちの進むべき道が見えたこともあり、すごく印象的でした。

あとは「組織づくりのプロジェクト」でしょうか。当時、団体の多くのメンバーは横文字が大嫌いだったこともあり、チームに自分の学びを持ち帰っても中々聞いてくれなくて。そんな中、WITの支援で吉備野工房ちみちの加藤せい子さん、林亮太郎さんに複数回出張きてもらい、チームビルディングのワークをしてもらったのはすごく大きかったですね。代表の私からの又聞きではなく、実際にワークに取り組んでもらうことで「私たちに必要なのね」と思ってもらうことができました。

また、どうしても事業をまわしていくのに精一杯で、目の前のことに日々追われていた部分がありましたが、内部のことをおろそかにしていてはダメなんだということにも気づきました。自分たちの弱さに気づいた一方で、できていることもあるんだと自信をもらえた気もしています。

それ以来も、組織無くして活動(事業)はない、両輪でまわさないと崩れてしまうという認識の下、組織づくりのための取り組みを続けています。

まんまるママいわての現場訪問ーWorld in Youのラーニングジャーニーにて

―佐藤さんはWorld in Youという言葉から何を思い浮かべますか? 佐藤さんにとってのWorld in Youとは何でしょうか?

私にとっては、「世界の中に私がいる」ということ、「世界への扉」でした。
東北の小さな活動ではなくて、世界に発信できることもある。何かをもらうだけではなく、与えること、お互い学びあえることもできるんだと。そんな気づきを与えてくれた存在です。

 

―今の自分から過去の自分へメッセージを送るとしたら?

「人生は紆余曲折しているようにみえるけれど、ちゃんと一つひとつに意味があったから大丈夫だよ。どの経験も無駄ではないし、あなたへの意味があったから。」と言葉をかけたいです。医者を目指していたのに、その後看護師、助産師、性教育、自然分娩、開業など、どんどんやっていることが変わり、筋が通ってないように自分では思っていたんです。でも、人生の第2チャプターに入ったら、それらが全てつながり、どれが抜けても今の活動にはならなかった。こんな強い想いをもっては走れなかったし、途中で心が折れてたと思う。その中で出会ってきた色々な方の顔ー母も自分自身も含めーがいるからこそ、続けてこられたと思います。

 

―その時々でご自身の直感を大事に行動できるというのは素晴らしいことだと思います。佐藤さんをそうさせているのは何でしょう?

何でしょうね。自分と同じ思いをしている人がいる時に、放っておけない性格なんですよね。やらないで後悔したくないという思いは強いです。迷ったときはチャレンジするようにしていますし、結局最後は自分が「やりたい」という思いから来ていると思います。

 

▼飯田より、インタビューを終えて

「目の前にぶらさがる紐をひっぱり続けていった」という言葉が特に印象的でした。世の中には「何かを始めたいけど、何がしたいかわからない」という人も多いと思いますが、まず自分の身近な興味や課題に目を向けて、行動してみることが何より大切なんだなと感じました。今後は、佐藤さんのおっしゃる通り「迷ったらチャレンジ」を常に意識して意思決定をしていこうと思います。

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▼みなさんにとっての"world in you"をぜひおしえてください!

「あなたにとってのWorld in You」、「あなたはWorld(社会、世界)とどうつながりたいか?どこに自分の時間と命を使いたい?」をぜひこちらのフォームから教えてください。

 

(本記事はインタビューからの抜粋です。インタビュー全文はPodcastでお楽しみください。)

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