World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。
その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。本記事はその対談の要約です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。

第3弾は、NPO法人ママワーク研究所Work Step株式会社の理事長・代表取締役の田中彩さんにお話を伺いました。(聴き手:三代祐子)

 

両立で体が起き上がらなくなった経験と、ママ201名の再就職への声

ママワーク研究所は、「子育てをしながら自分らしく働きたいと願うママたちのサポーター」をイメージして、2012年に設立しました。ビジョンは「育児」と「仕事」をどちらも大切にできる社会、ミッションは「自分らしく働きたい」ママの学びと企業の出会いの創出です。

創設のきっかけは、私自身の経験です。出産を機に離職したのですが、再就職をしたときに子育て、家事、仕事をやろうとしたのですが10ヶ月で体が起き上がれなくなり、挫折したんです。その後、2人の子育てをしながら、子育て期のママに優秀な人が多いことに気づき、PTAや子育てサークルでアンケート調査を2010年に実施し、201名から回答を得ました。

そこで分かったことは、出産を機に退職するママが54%、再就職を希望するママが86%と多数である一方で、仕事探しを具体的にしていない方は56%、離職前は実績や経験がある方が多い(職務年数5年以上65%、10年以上18%)ということ。こういう方が働けないのはもったいない、何かできることがあるのではと、行動を起こしました。

 

ママワーク研究所の事業

その後、内閣府の社会起業家養成講座でファイナリストになり、法人を立ち上げました。行政との連携を考えてNPO法人を選び、育児期の女性と企業の出会いの窓口に着手しました。

●ママワークスクール
いずれ就労したい女性の学び場(パソコンスキル、仕事と子育てのバランス、話し方、交流会など)を、行政と連携し公民館や駅前スペースを活用して提供してきました。

●ママボランチ育成講座
スクールの次のステップで、しっかり働きたいという方向けの講座で、内閣府の地域の女性活躍推進モデルとしてスタートしました。

子育て期はスタートアップ企業のバックオフィス業務などを柔軟な働き方で担いながら、子育てがひと段落してくる頃に企業の成長とともにリーダー職になっていくことを目指しています。サッカーのボランチのように、家庭で司令塔的役割を果たすママたちが、職場でもリーダーとなっていくことを期待しています。

●ママドラフト会議
働きたい女性が、これまでのキャリア・地域活動・子育てで身に着けたこと・希望する働き方などを、集まった企業にスピーチし、未来の就職先に出会う場。スピーチ本番前の事前トレーニング「魅力120%UP研修」も提供しています。
これまで福岡、北九州、東京、山口のほか、九州7県が参加するオンラインイベントなどを開催し、今年20回目を迎えます。

参考:NPO法人ママワーク研究所ホームページ

 

NPOではできないことをやるため、Work Step株式会社も設立

ママワーク研究所を通じて、学び+企業と出会う場をつくってきましたが、実際の就職に至るまでには、具体的な条件の整理、すり合わせが必要で、それが女性と企業の直接交渉では実りにくいことがわかりました。そこで、仲介の役割ができる人材紹介業の免許取得のため、2017年に株式会社Work StepをNPO法人の事業サポートを目的として設立しました。

Work Stepのビジョンは、さまざまな制約があっても能力発揮できる社会、ミッションは、オーダーメイドのキャリアステップを創ることです。

参考:WorkStep株式会社ホームページ

 

プレーヤーの少ない地方で、点ではなく面のサポートを

2法人でグループとして、キャリアステップに応じたサービスをより包括的に提供できるようになり、行政とも連携しながら、福岡県を超えた広域圏で女性と企業をつないでいます。

事業内容

(ママワーク研究所・WorkStepプレゼン資料より抜粋)

九州全体で、女性のキャリア支援が地域経済にも価値をもたらしうることを実感したきっかけが、2016年に実施したSROI(Social Return on Investent)測定です。事業の社会的価値を貨幣換算するこの手法では、1年間に、ママボランチ講座を九州7県で実施できた場合101億円の貨幣価値があるという結果が出ました。本論文は九州の経済調査協会から賞をいただきました。

現在私たちが活動をしている九州7県・山口・沖縄には、女性の潜在的就労者が17万人います。このような方々をサポートしていくため、昨年開催した「ママドラフト会議 For Kyusyu Island」など、福岡県をこえた広域圏での取り組みを進めています。

●福岡じょしごと
福岡じょしごと」という求人メディアも2022年にスタートしました。時間の制約があっても「私らしく」働きたいという方向けに、短時間正社員制度や在宅勤務、パートタイムから正社員やリーダー職にステップアップできる仕組みがある企業情報を伝えています。

今後に向けては、まず、日本の課題であるジェンダーギャップについて、離職した女性がリスキルを経て経済的に自立する仕組みをつくりたいです。

2つ目に、ローカル(地方)では、そのような活動をするプレーヤーがまだ少ない一方で、子育てをする環境は恵まれています。どこに住んでいても希望する就労の形を実現できるよう、連携先を増やしてサポート体制を点から面にしていきたいです。

3つ目に、社会に成果を出すソーシャルインパクトと、精神面だけではない事業性の両方をさらに追求し、もっと高みを目指していきたいです。

女性には自信がない方が多い中で、「できる」という力をまず階段の一段目に置いてくださいと、よく私たちはお伝えしています。そこから、トライできること、できることが少しずつ増えて、いずれ最終的にやりたかったことのチャンスを掴みにいく、そういう女性たちをもっとたくさん輩出したいです。

今後さらに、ローカル、オンライン、パートナーのかけあわせで、女性を産業につなげ、地域の経済活性化に貢献していきたいと思います。

 

- スポーツが好きで、ボランチやドラフトなどのネーミングをしたのですか?

(田中)
企業の経営者に届くキーワードがスポーツだったんです。

 

- 団体を立ち上げるにはすごくバイタリティがいると思うのですが、設立を決めたときのことを教えてください。

(田中)
先輩方がいたから踏み出せたというのがあります。一つはマドレボニータで、産後白書の制作メンバーとして参加したのですが、自分が苦しんだ産後のことをデータで発信することで、こんなに色んな方に伝わるのだということを実感しました。そこで、自分が気になっている分野でやってみようと、アンケートを福岡で実施したのですが、もともと責任感が強いので、預かった声で何ができるかと考え動いていくうちに、ビジネスプランができました。

社会起業家養成塾のファイナリストになった時に、専業主婦から起業することを躊躇したのですが、大学の先輩で社会起業家の方が「とにかく歩いてみたら」と背中を押してくれたことで、じゃあ一歩進んでみようと想い、なんとか10年続けてこられました。

 

- 行政、企業、女性の間のニーズのギャップやミスマッチはどういうところで起きていますか? また、この10年の変化をどう感じていますか?

(田中)
女性、その家族、企業、行政など、非常に多くの方々の調整をしてはじめて、再就職が果たせるような分野なので、その調整にエネルギーがかかります。
たとえば、企業側は、いい人材がほしいが、マネジメントコストは小さいほうがよい。そんな中で、フルタイムや転勤可能ではないというマイナスポイントを上回る、個人の魅力を伝えたく、ドラフト会議のアイディアが生まれました。通常の就活では解決できない課題を、イベント化することで、企業側に「なるほど、こういう人が仕事をしないのは勿体無い」ということを体感してもらえるようにしました。

昨今の変化としては、フリーランスや在宅勤務という選択肢が出てきたことです。これまでは新たな雇用につなぐことでしたが、プロジェクト単位で業務委託なども可能になりました。

 

- 東京や福岡などに住んできた中で地域差は感じますか?

(田中)
あると思います。福岡などの地方では、女性側の家庭責任の義務感が強く、パートナーとの関係についても、「家庭のことは女性」というご家庭が多いですね。

 

- 求人メディア「じょしごと」は、産後の女性以外の方も利用できますか?

(田中)
どんな方でも多様な働き方ができる企業を取材しているので、育休取得したい男性などにも活用いただけたらと思います。

 

ー 子どもの年齢や家族のフェーズとともに、課題意識や団体の活動が変化する場合もよくありますが、それについてはいかがですか?

(田中)
子育て現役世代がチームに入ってくれるので、今ならではの課題感を持ち続けられていると思います。

 

- 今後、どんな応援や連携があるとよいですか?

(田中)
ブランクや制約がある女性たちの経済的自立には、企業様側の協力、応援、環境整備がないと続きません。ローカルだと中々そこまでできる企業が少ないので、私たちも産業界全体における価値を伝えながら、受け入れる企業を増やしていきたいです。

 

参加者とのQ&A

 

ー 活動をしている自分自身が疲弊しないように、生活と仕事のバランスはどのようにとっていますか?

自分はバランスが取れていたとは言えないと思います。続けられたのは、自分が本気でやりたいのだと夫や子どもに伝えてきたことにあると思います。家族も仕事もどちらも大事だとしっかり伝え、子どもなのでそれが嫌だと思う時はどうしてもありますが、しっかり働いている中で自分が疲れて夕食が作れない時など、姉弟が工夫して対応するなど自立的な家族になってくれました。それは自分の誇りです。

 

ー 再就職し、新たなキャリア形成された具体的なケースを知りたいです。

(田中)
ママドラフト会議は「人と人との出会い」なので、思わぬ会社や業界に入る人が一定数います。たとえば、以前販売職だった方が、ミートアップで企業と話をする中で、IT企業のウェブサイト更新をやってみないかと再就職し、はじめは短時間勤務でしたが、1年後就業時間を伸ばし、2年目で正社員になりました。このように数年かけてトライしていくので後追い調査が重要になります。

 

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