World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。
その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。本記事はその対談の要約です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。

 

第5弾は、「多くの人が自分らしい生活をおくり、最期を迎えられる社会」を目指して、心身の健康について相談できる「フレンドナース」の事業などを行う一般財団法人ウェルネスサポートLab(以下、ウェルサポ)代表理事の笠 淑美さんにお話を伺いました。
(聴き手:山本 未生、議事メモ:三代 祐子、記事:鬼頭 美帆)

自分らしく持続的に健康的に、社会と関わりたい

私にとって「社会」とは、私と家族、私と企業、私とチームなど、人と人の集まりです。幼少のころから家業を通しての関心事は、「どのように自分らしく、持続的に健康的に、自分の周りの人々、自分を取り巻く社会と関わっていけるか」ということです。

小さい頃3家族で同居していたのが、私にとっての小さな「社会」の原点でした。世界の偉人伝記シリーズを夢中になって読み、こんな風に一芸に秀でて、人と社会に関わりたいと思いました。また、家業の手伝いを通して社会経験を積む中で、問いを立てて、考えることが好きな子ども時代でした。

受験戦争を乗り切った矢先、父親の余命宣告を受け、父の健康は父だけでなく、私や家族の健康をも脅かすものだと実感しました。その頃から、自分らしく生きること、健康に生きることの大切さを実感するようになり、またそれは、自分のためだけでなく、周囲の大切な人のためにもなると、強く思うようになりました。

 

「ただ子育てをしながら働きたいだけなのに、どうしてこんなに苦しく不安なのか」−社会課題を感じて起業

その後、ランドスケープデザイン事務所に勤め、そこで結婚、出産、子育てを体験しました。お金も時間もエネルギーも自分だけに注げた独身の頃と一転して、なんて不自由な身になったのだろうと思いました。ただ子育てをしながら働きたいだけなのに、どうしてこんなに苦しく不安なのか、という社会への疑問が、社会課題に関心を寄せるきっかけとなりました。それを機に、職種にこだわらず、働き方を変えてみようとフリーランスになりました。

私はとにかく人の話を聞くことが好きで、1,000人以上の女性から、子育て、マネジメントなどの悩み相談を受け、多くの女性が自分と同じことで悩んでいると実感しました。「働く」と「Well being」の関係性が大事だと、自分だけの社会課題が他人の社会課題へと広がりました。

 

一人のナースから受けた相談をきっかけに、ウェルサポの前身団体を発足

そんな中、日赤病院で20年のキャリアを積んできた一人のナースから相談を受けました。「このまま管理職になるのではなく、自分のしてきたことを地域に返したい」、「両立できずに辞めていくナースの後輩に、もっと合った働き方を提案したい」、「入退院を定期的に繰り返す患者と、その度に健康度が低下する家族をみて、健康的に自分らしく過ごせる社会に寄与したい」という、新しいナースのあり方についての思いでした。
そして、彼女(看護師の菊池)とともに同じ理想の社会をみていた、健康運動士の権藤、私の3名で、2019年4月にウェルサポの前身団体を発足し、病院の補完サービスとして活動を始めました。

 

90代ご婦人の遺贈寄付により、ウェルサポを設立

病院を通じて私たちのサービスを利用した90代の女性で、退院時に、一人暮らしであることへの不安を口にされていた方がいました。彼女は、核家族化により、ご自身のような境遇の人が増えていくことを懸念していました。「次世代の人たちにも、健康でハッピーな世界を繋いでいってほしい」という彼女からの遺贈寄付と、私自身のヤングケアラーとして父をケアした経験も重なり、患者と家族のハッピーの両立、働き世代とシニア世代の穏やかな暮らしの両立を目的とし、「かかりつけナース制度」を軸にしたウェルサポを設立しました。

国家予算の3分の1は65歳以上の医療費または介護費として使用されており、少子高齢化の加速により、一人の若者が二人の知らない高齢者を支えていくことになります。このような社会保障負担の構図を知り、私だけではなく、子や孫の世代に負担を高めていくのだと思った時に、少子高齢化という社会課題が「自分ごと」となりました。シニア世代も、負担の重くなる働き世代も、健康であり続けなければいけないと思い、フレンドナース(かかりつけナース)を通じて、不安不調などの健康課題に取り組んでいます。

(ウェルサポプレゼン資料より抜粋)

 

フレンドナース(かかりつけナース)制度

父の介護をしながら私が自分らしく暮らせたのは、妹たちが私の「かかりつけナース」であり最高の友人でいてくれたおかげでした。その経験から、私たちはまず、「最高の友人」であることを利用者にお約束します。嬉しいことだけでなく、悲しいことや苦しいことこそ共有できる、信頼できる友人であることで、どんなに小さな不調でも、話していただきたいと思っています。「最高の友人」でかつ「プロの技」を持っているからこそ、「最強のサポート」ができるのです。

フレンドナースの利用者の方が喜んでくださることとしては、小さな不安不調サインを見逃さない、つまり疾病の発見が早いこと、生活改善から疾病予防しようとすること、豊富な人脈と情報の提供、信頼できる専門家への引継ぎ、施設や受診への紹介やその引継ぎのスムーズさ、同じスタッフが不安不調期から病気の期間も続けてサポートするため安心して療養生活を送れること、などがあります。

フレンドナースでは、私たちの考える健康的な暮らしに大事な「食べる」「動かす」「整える」「働く」をベースに、「不安不調期」「病気療養期」「社会健康と働く・社会参画」の3本柱でサポートしています。

(ウェルサポプレゼン資料より抜粋)

 

ウェルサポの事業

●SUPPORT 1 暮らしのウェルネスサービス(不安不調期)

チャットサービスで、企業の福利厚生や個人申し込みで利用でき、不安不調や症状の柔和と改善を行っています。サービスを通して、健康×〇〇(健康×子育て、健康×働き方など)の課題とニーズを把握し、啓蒙にも役立てています。私たちが相談を受ければ受けるほど、皆さんの望む社会に近づいていくと良いなと思って行っています。

体制は、フレンドナースが受け答えをし、込み入った内容は、認定の専門看護師、助産師、管理栄養士、健康運動指導士、社会福祉士、言語聴覚士などの専門アドバイザーが控えていてサポートしています。それでも解決できない場合は、その他専門機関、行政、医療機関と連携し、素因を解決します。利用者が身体だけでなく、心も健康をキープできるように取り組んでいます。その中で、健康状態とその原因、困りごとやニーズなどの把握にも務め、見えてきた実態をリーフレットにまとめるといった啓蒙活動もしています。

性差による健康格差にも注目しています。昨年実施した、福岡の働く女性500人のモニター実施では、500人中「不調や悩みが特にない」人は10人未満で、490人は不安不調がありながら働いています。にも関わらず、半数は「健康度に満足している」。つまり、不調や悩みが通常化しているのです。不安不調を「改善したい」とすら思わないという事態を危惧しています。

(ウェルサポプレゼン資料より抜粋)

 

5か月間で、モニター500人中約半数がチャットサービスを使い、830件の相談が寄せられました。相談の44%は女性特有の不調に関するもので、「聞いてもらってよかった」「改善した」という人が半数いました。女性にとって、しっかりと状況を理解してもらうことが効果的だと分かりました。そこから受診のすすめを130件行い、55件が受診、うち9名に疾病が見つかりました。

年一回の健康診断には、女性特有の症状に関する検査項目がないため、不安不調の中から受診していくと、疾病が発見できることがあります。生活習慣のアドバイスの中で定期的に関わることが大事だと感じています。仕事と健康の両立においても、性差による健康格差は大きく、まず女性自身の自覚と、周囲の男性からの理解が必要です。

●SUPPORT 2 安心サポートサービス(病気療養期)

病気療養期は、意思の伝達が困難になりがちで、ご家族のサポートも難しくなります。病院内・制度内だけではなく、病院外や会社の制度外のことでも、「自分らしさ」をベースにサポートを行っています。今後は、不安不調期と病気療養期のサポートをセットにし、不安不調期から心身状況を把握しつつ、万が一疾病になったらいち早く発見し、会社と協力して社会復帰を助けていけるようなサービスを検討中です。

●SUPPORT 3 社会体験と養成のためのリカレント塾 (学びと体験)

学びなおし、働く、社会参画するということを、自分らしく行うための事業です。誰もが健康的に働き続けるための人材づくりやその評価基準づくりをしています。1つ目はフレンドナースの養成です。経験を積んできたナースを対象に、丁寧な対人支援をするための養成をしています。2つ目は、エッセンシャルワーカーはきつい面だけがフォーカスされますが、ナースはとても楽しくやりがいある仕事だと伝えていくことです。その他にも、育休のサポーター、未来のナース育成プロジェクトなども行っています。

 

Q&A

(山本)

- フレンドナース一人あたりの対応可能な会員数、また無制限に使ってもいいのかなど、利用者の目線で興味があります。

昨年の実証で検証し、1人のナースで250〜500人への対応が可能です。相談回数は無制限で、「いつでも、好きな時に、何度でも」が合言葉です。

- 財団法人というのが特徴だということですが、この法人格を選択した想いを聞かせてください。

当初は一般社団法人を考えていましたが、(上述のとおり)90代のご婦人が、私たちの趣旨に賛同し、今後の地域社会を考えて財を投じてくださったため、それを叶えるためには、一般財団法人が適していると考えました。寄付はとても嬉しかった反面、責任感のあることで、創設者3人で強い緊張感を感じたことを今でも思い出します。

- 今後、どのようなところに注力し、どのように活動を深め、広げていきたいですか?

ナースという人的資本が、疾病の時だけケアにまわるのはもったいないと思います。社会に寄与したい思いを持つ人が多いので、彼らが臨床経験を積み、生きがいを持って活動できる場所を地域につくりたいです。また、働き世代は不安不調期の真っただ中なのに健康に取り組めていないので、働き世代に対して、企業全体で健康になっていこうという働きかけに、本年度から取り組んでいます。

- 企業で展開している福利厚生について、福岡拠点の企業が多いですか?

現在福岡に1社、福岡と東京のハイブリッドで1社ありますが、サービス提供はチャットなので、どこでも可能です。他地域のナースの方たちから、自分の地域でもやってみたいという話をいただくので、地産地消で対面も含めて展開したいです。臨床経験の豊富なナースが地域で活動しているというのが一番の強みだったため、自然発生的に福岡で2年やってきましたが、本年度・来年度は、多地域展開を見据えています。

(三代)

- アンケートで500人中490人が不安不調があると言いながらも、半数以上が自分は健康だと言い、不調をベースに走っている状況に衝撃を受けたものの、自分もその一人だと気づきました。日本人特有、または、女性特有なのでしょうか?

女性は10歳頃初潮を迎えて以来、1か月のうち1週間は不安不調であり、かつその解消法を学校現場でも家庭でも教わっていないので、女性の方が(不安不調を)抱えやすいと思います。私たちが提唱する「不安不調」の定義としては、頭痛が2-3日続いたり、1か月以内に3〜4回あるなどは、すでに不調状態、疾病に近づいているということです。子どもなら病院に連れていくのに、自分だとそうしないので、フレンドナースが、改善や受診の判断をサポートしています。

- 相談者も、話を聞いてもらうことで、多くの人は言ってもいいのだと感じ、安心しそうですね。文化的・社会的に。不調を訴えないというのはありますよね。

例えば、モニターの方から生理中の薬の飲み方の相談がある際に、アドバイスによって改善すると、「改善するんですね!」と驚かれることがあります。不快に慣れていて、快を知ってはいけないという暗示でもあるのかと思えるほどです。

(参加者)

- 有償サービスという理解ですが、支払えない場合の特別な対応などはありますか?

無償提供できるように団体を成長させたいと思っています。財団法人なので寄付を受けることもできます。若年層に対して、若い頃から不安不調を解消していいのだという啓蒙活動ももっとしていきたいので、それは寄付で無償提供できるように検討しています。

- フレンドナースなど、ケアする側へのサポート、ケアはどうされていますか?

フレンドナースたちもウェルビーイングの実践者という考え方で、利用者の皆さんにもそう約束しています。ナースたちも生活習慣を整え、運動習慣やがんばっていることなどを共有しています。自分や家族の健康状態との両立ができず、優秀なナースが辞めていくことが多いので、私たち自身の健康も、地域の健康も、同等に大事に扱っています。

(山本)

- 医療相談、意思伝達や意思決定に地域性はありますか? 自身の経験では、受診前に患者側が相当準備していって初めて、医者との短時間の診察内で納得いく選択をしたと思えることがあり、そこに伴走をしてくれる人がいるのは大事だなと思いました。

意思伝達や意思決定はトレーニング次第なので、幼少期からトレーニングをしているかは大きい課題だと感じています。特に病室に限ると、医者はヒエラルキーの高いところにいると捉えられていることもあり、意思伝達にも影響します。診察時に限らず、両立支援でいうと、勤務先の労務課や総務課に、自分の病状を伝えることも難しいです。支えが必要な状態になればなるほど、意思伝達、意思決定、情報収集も難しくなるので、そばで伴走しながら選択肢を整理して、選択や伝達しやすい状況をつくってあげることが大事です。
不安不調期は、490人の結果から分かるように、誰にでもあるという前提で「自分にもある、だから周囲にもいるはず」と考えることが大事です。いのちの電話などの前に、家族や身の周りの人に言える環境があれば違ってくるのかなと思います。

(三代)

- 相談を聞いてもらうにあたって、「フレンド」と「ナース」はどっちが大事な肝なのでしょうか?どういう人に聞いてもらうと良いのでしょうか。

フレンドであり、ナースであるという、同格で両方が大事です。ピアや共感コミュニティは共感で終わってしまうので、解決に至らないので素因が残ってしまいます。

- 初めて相談してきた方が、信頼してこの人に話そうと思うような関係性を築くためにどのようなことをしていますか?

自己紹介する・ウェルネス度をチェックする問診を毎月送るなどの会話のきっかけづくり、きちんとした相談をしなくていいよと伝える仕組み(相談ボタンの設置)など、色々な工夫があります。まずフレンドになってもらうことが大事なので、回数を重ねることが非常に大事です。ナース側の自己開示としては、機械的にならず、自分の体験談を話すなどもしています。

- オンラインとリアルの両方で、病気になっていない予防期から見ていくのは、素晴らしいです。

まだまだ工夫していきたいです。例えば、日本は相談やぼやきに対する抵抗が強いので、文章にならなくても良いので、ぼやき・つぶやきを送ってほしいと思っています。「ちょっとお腹が・・・」などの相談例文を紹介したりしています。普段と何か違っても、自分から伝える、相談するというのは難しく、相談していい内容なのかわからない、文章がうまく書けない、などもあります。

(山本)

- 読者の方にメッセージがあればお願いします。

私の健康は私のものだけではありません。一人の人が健康でないと、その周りの大切な人が悲しむという状況を見てきたので、周りの大切な人のためにも、みなさんに不安不調の頃から健康課題に取り組んでほしいと願っています。

 

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