World in Youでは、より良い社会づくりに取り組んでいる様々な団体の想いや活動内容について伺いながら、皆さんにもお届けしようと、対談シリーズ「World in You × Org」を始めました。
その最初の試みとして2022年6月より月1回ほどのペースで、「女性の働くを豊かにする」分野で取り組んでいる団体との対談イベントを開催しています。本記事はその対談の要約です。対談の全内容はYouTubeでお楽しみください。

第2弾は、NPO法人ArrowArrowのファウンダー堀江由香里さんと現代表の海野千尋さんにお話を伺いました。(聴き手:山本未生

 

なぜ「働くか産むかのどちらかを選ばないといけない」のか、という怒りから、選択肢が溢れる社会を目指して

(堀江)
ArrowArrowのファウンダー(創設者)で、現在は東京コミュニティスクールという全日制のマイクロスクールの理事長を務めています。事業の大枠は海野に任せ、縁の下の力持ち的にサポートしています。

女性の就労に関する原体験があり、人材系のベンチャーに就職し、その後病児保育のNPOに転職しました。それをきっかけにワークライフバランスのコンサルなどに携わるようになり、人生のビジョン・想いを具現化しようと、独立してArrowArrowを立ち上げました。

ArrowArrowのビジョン「子育てや介護等の理由に左右されない、選択肢の溢れる社会の創造」が、どのように生まれたかについてお話してみたいと思います。

私も海野もぎりぎり就職氷河期の世代で、大学以降どういうキャリアを歩むか悩んでいました。私の親友が第一志望の企業から内定をもらったのに、「子育てと仕事の両立ができなさそうだから」と内定を辞退してしまったんです。当時私は彼女に怒りをぶつけて喧嘩してしまいました。何が彼女をそうさせたのかについて、自分が社会学を専攻していたこともあり、色々調べてみたら、「働くか産むかのどちらかを選ばないといけない」という事例は沢山あるのですが、どちらもやれるという事例が今から20年前はほとんどなかったのです。これは、社会が悪いのだと考え、働くも産むも両方選べる組織が日本にあればいいと思い、いつか起業しようと決めました。これが私の原体験です。

その後、社会人経験を積む中で、ポイントはライフイベントだと考えました。新卒時には男女の差がなくても、結婚・出産などのライフイベントで、途端に女性の抱える責任が重くなります。働きたいし、育児の手も抜きたくない時に、選択肢がないという気持ちになってしまうのです。そこにフォーカスをあてた事業をつくろうと、ArrowArrowのビジョンには「子育てか仕事か」でなく「子育ても仕事も」を入れました。

さらに、介護も大きなライフイベントであるため、まずは子育て中の女性にフォーカスするが、団体のビジョンとしては全てのライフイベントに対して女性だけでなく男性も、全ての人に選択肢が溢れる社会をつくりたいという想いを込めています。これはずっと変わらない想いです。

 

ArrowArrowに出会い、働き方の選択肢は変えられることに気づいた

(海野)
私とArrowArrowとの出会いは、2011年、団体立ち上げ当時でした。その頃私は、この後どのように働き生きていこうか生き惑っていたんです。当時中小企業に務めていて、女性の先輩がどんどん辞めていく状況に、やりたい仕事を続けるには(結婚・出産などの)ライフイベントは諦めるものなんだ、と思っていました。

そんな時に、ArrowArrowの生き方デザイン学を受け、堀江に出会いました。ArrowArrowに出会ったことで、個人の問題ではなく、組織・社会の問題なんだということにつながりました。個人が諦める必要はなく、ありたい生き方を選択している人は沢山いて、それを支えている企業も多くあること、そういう生き方はつくっていけるものなんだということを知りました。

これがきっかけで、2013年に突然押しかけてArrowArrowに入りました。2014年に共同代表となり、2019年から代表として、企業と個人の間に立ち、できないと言われる働き方をできるに変えていくか、働き方の選択肢を変えるために何をすればよいか、個人や組織に寄り添いながら走っています。

 

中小企業で結婚・出産を機に離職する女性を減らしたい

ArrowArrowの課題意識は、私自身が抱いてきた課題意識と重なるのですが、それをお話してみたいと思います。

1つ目は、「ライフイベントと『働く』を並走できる選択肢をつくりたい」です。この背景にあるのが、女性の妊娠・出産時期の就業率が低いというM字カーブの問題です。徐々にM字の落ち込みは浅くなってきていますが、まだこの傾向は見られます。

(ArrowArrowプレゼン資料より抜粋)

2つ目は、「日本では組織規模体によって『働く』選択肢が少ない」ことです。事業規模が小さいほど「働く」選択肢が少ない中で、日本の98%を占める中小企業における女性の働き方が変わらなければ日本は変われません。

(ArrowArrowプレゼン資料より抜粋)

3つ目は、男女別の役割意識です。ミレニアム・Z世代では変わりつつありますが、家事・子育ては女性の役割であるという価値観は依然根強いです。ArrowArrowは、出産・子育ての両立について職場の支援が不足している、両立にチャレンジしたけれど失敗した、大変で離職しました、という方々の状況を変えたいという課題意識で動いています。

(ArrowArrowプレゼン資料より抜粋)

 

ArrowArrowの事業

このような課題意識をもとに、ArrowArrowとしてどんなことをしてきたかをお話します。

●産休!Thank you!社員!Shine!

女性が出産後働き続けた前例がないという企業から相談を受けることがあるのですが、産休!Thank you!社員!Shine!というプログラムを通じて、産育休に入っていける仕組みづくり、業務を分解して戻ってこれる仕組みづくり、企業の働き方を変える実装などを行ってきました。また、一企業を超えた変化が求められる時には、業界のマネジメント層を呼び、マネジメント側が何を考え、変えていく必要があるかを提言してきました。

●ママインターン

ママインターンは、小学生の子がいる親が、子どもが帰ってきたときに「おかえり」といえるような働き方がなぜできないのかという疑問から出発した事業です。「短時間で働ける」選択肢がないという課題に対して、1日に数時間、週に2−4日という短い時間で働きたい個人と、短時間でも働く人が欲しいという中小企業を地域内で繋げる仕組みをつくりました。2014年に始めた当時はこうした仕組みがまだ少なく、様々なメディアに取り上げていただき、行政のアドバイザリーにも入る機会もありました。「ないものをつくること」ができると実感した事業です。

上記のような事業などを通じて、個人の側から働き方の選択肢をつくるとともに、受け入れ組織の体制を変えていくこととセットで日々活動しています。

 

- 設立から10年経ち、ArrowArrowからみた社会の捉え方や、取り組みたいことに変化はありますか?

(海野)
この10年で大きく変化したなという点と、まだまだ難しいと思う点があります。2016年に女性活躍推進法が施行されたのは大きなターニングポイントでした。これにより、大企業が女性の働き方について周知したり社内外に情報開示することとなり、組織が個人に目を向けるようになりました。それが今は中小企業に進んできています。働き方の選択肢は一度にがらっと変わるのではなく、一人ずつ、一社ずつ起きていきます。今年は、男性の育休取得の法制度改正により、個人の働き方の選択肢をますます企業が受け止めざるを得なくなってきました。

また、コロナ禍が働く選択肢に与えている影響は、人それぞれです。ママインターンによって再び働き始めた女性で、コロナにより仕事を辞めざるをえなかった方もいれば、これまで「この会社ではテレワークできない」という状況だった女性が、在宅ワークが叶い子育てと仕事の両立ができたという方もいます。

育休後働き続ける人が増える一方、マミートラックという新たな課題が生じたりと、課題が細分化しています。法制度の変化に対応する企業が増える中、わが社はどうするかという混乱や迷いも増えています。

そんな中で、ArrowArrowとしては、常に「個人と組織の間に立つ」ことを意識していたいです。組織に求められる変化や直面している課題に寄り添う一方、それがちゃんと個人の課題解決に繋がっているのかを常に意識していきたいと思います。

 

- 個人と外的要因により社会が変化する中で、「個人と組織の間に立つ」がArrowArrowの取り組みの姿勢を表していると思いますが、その難しさやうまくいくときのコツや要因はどこにありますか?

(堀江)
難しさについては、ライフイベントを抱えている女性、退職した女性は、得てして自己肯定感が下がっているということです。客観的な自己評価をするのが難しい状態からスタートするケースが多いので、「(職場に)入れてくれるだけでありがたいです!」という雰囲気になってしまうのですが、本来は企業のニーズと個人のニーズはマッチングできるものです。企業と個人がフラットな状態になるためには、個人が自分の棚卸しをし、周囲の客観的なフィードバックも得ることが大事です。選択肢がないわけでなく、見えなくなりがち、であるだけなので、「一歩踏みだしたらなんとかなる」という道筋に気づいてもらう必要があります。「私はこういうことが好きで、こういうことをできていた」という振り返りが肝であり、難しさでもあります。「そうは言っても・・・」となりがちなので。今までの教育や女性的な生き方と絡まっているのが難しいところですが、それを解きほぐせると、企業へのアピールになります。

(海野)
働き方の選択肢をまず自分で決めることが、個人のスタート地点として必要で、それがあるからこそ企業と交渉できるので、「どうしたら自己決定できるのか?」ということが重要です。個人が「こうありたい」ということを言いやすい環境があるか? 組織と個人の主従構造で言いにくいところには、ArrowArrowとして介入して、客観的に、組織内で個人の声を伝えやすくするにはどうしたらよいかを考えます。
社員!Shine!プログラムでは、対話型ワークショップをやることが増えているのですが、キャリア研修を数年やっていくと「この会社ではどういう働き方ができるか」ということが言いあえる場に変化していくことがあります。事業の話だけではなく、働き方の話も組織でできるか、個人の自己決定を組織が受け止める土壌があるかは、注視しているポイントです。

(堀江)
活動初期の頃は、ArrowArrowからクライアントの上司の方に「今の発言の仕方は地雷です」と伝えることも多かったです。傷つけようと思って上司も言っているわけではないのですが、視点を変え社員側の立場で聞くとこう感じる、という対話を促します。

 

- 働き方の話ができる職場は本当に大事だと思います。クライアントになる組織は中小企業がほとんどですか?

(海野)
中小企業以外にも、D&Iを推進したい企業、グローバルな企業のCSRで日本の女性の働き方に課題感をもっている企業と一緒にやらせていただくこともあります。

 

- 中小企業に関しては、企業側・社員のどちらから相談がきますか?

(海野)
どちらもあります。過去には実際に困っている社員が会社の状況を伝えてくれる場合もありましたが、近年は企業からの問い合わせが多いです。

 

- 今後もっとも力を入れたいことは何ですか?

(海野)
働き方の選択肢の多様化が加速しているので、その選択肢ごとに迷う人が増えそうだと思っています。選択ができるからこその新たな課題にどう対処するかを考えていきたいです。例えば、コロナで仕事をやめざるをえなかった人、育休後マミートラックに入っている人、在宅ワークからオフィスに戻る場合など。一社一社がどう選択肢をつくっていくかに寄与しながら、個々人の迷っているゾーンと関わっていきたいです。

 

ー 伝統的に企業に求められてきた尺度、良しとされる職場、従業員に提供すれば良いとされてきたことが今シフトしてきています。今後、ArrowArrowとして、あるいは個人的でも、どんな職場が増えるとよいと思いますか?

(海野)
D&Iに取り組む難しさを感じています。そんな中で、当社はこの方針でいく!と決めてトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、必要に応じてトランスフォームしていける企業に信頼を置いています。固定化するよりも流動的な企業が好きですね。

(堀江)
株式会社という概念でない働き方が増えていくと面白いなと思います。副業は本業がある前提ですが、色々なところに所属があり、副業ですらなく、全ての役割に対して本業的に関わっていて、どこの所属も強くない。フリーランスと正社員のいいところ取りのようなことはできないのか? 想いがこもった組織が集合体となり、その中で行き来するような、1つの組織を超えた関係性の中で自分の働き方を自分で決められる、というようなことができると面白いと思います。

 

- 海野さんから最後に対談を聴いてくださる皆さんにメッセージをお願いします。

(海野)
これからの時代、個人がどうオーナーシップを持つかが大事だと思います。起点が個人となり、それがどう企業とつながるか? 一人一人が今の生き方に納得しているか?どう決めていくか?変えていくか?など、考えるのは難しいし、ベルトコンベヤーの方が楽かもしれませんが、一緒に変えたり、変動したり、動いたり、決めたりできると心強いです。皆さんと一緒に、混迷の時代に生きて「働く」をしていきたいです。

 

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