AVPN Global Conference 2025 参加報告 〜 アジアから世界へ、フィランソロピーとインパクト投資の新たな可能性

こんにちは、World in You代表の山本未生です。9月9日~11日、AVPN (Asian Venture Philanthropy Network)Global Conference 2025@香港に参加してきました。
Asian Venture Philanthropy Network (AVPN) は、アジアの社会的投資に関するネットワークで、グローバルカンファレンスには、アジア各国から、社会的なインパクトをもたらすことを目指す資金提供者(グラント、デット、エクイティ)を中心に1500人規模の参加者が集まります。
World in Youでは、日本のNPOや社会的企業を海外とつなぐ活動もしていますが、その一環として今年はグローバルカンファレンスに参加することができ、大変ありがたかったです。
今回一緒に参加したきずなメール・プロジェクト代表の大島由起雄さんと
今回のカンファレンスの特徴、キーワードなど
1. インクルージョンに向けた、アジアのリーダーシップ
- 印象的だったのは、「アジアのリーダーシップ」への強い意識でした。香港特別行政区政府のPaul Chan氏は、アジアにおける富の増加(富裕層の台頭)が進んでいるにも関わらず、が2025-2028年にかけて世界の新たな富裕層の約半分を占める見込みである一方、グローバルなインパクト投資におけるアジアの存在感はまだ十分ではないという現状が共有されました。カンファレンス全体で、アジアがグローバルな社会課題解決により積極的な役割を果たす必要性が強調されていました。(筆者参照:GIIN, State of the Market 2024: Trends, Performance and Allocations, Asia-Pacific home to half of world’s new wealth by 2028)
- もう1つ印象的だったのは、世界各地で多様性を排除する動きが見られる中、AVPNが「インクルージョン」をカンファレンスのタイトルとして明確に掲げたことです。
- 「アジアの富を社会的インパクトへ」という点では、今回のカンファレンスのローカルホストである、香港ジョッキークラブの取り組みです。140周年を迎える同クラブは非営利団体として、初期から競馬という事業から得た収益を社会貢献に還元してきています。年間余剰金をThe Hong Kong Jockey Club Charities Trustを通じて慈善・コミュニティプロジェクトに充て、2023/2024年は日本円で2000億円規模(HK$10.2 billion)の慈善寄付をしている、世界最大級のフィランソロピー財団の一つです。
NPOのキャパシティビルディングの必要性を語る、サウジアラビアの主要な慈善財団のCEOであるPrincess Nouf bint Muhammad bin Abdullah
香港ジョッキークラブが支援する団体から子どもたちが伝統芸能をパフォーマンス
2. 気候変動への取り組み
- 気候変動については、単独の課題としてではなく、テクノロジー、ヘルス、ジェンダーとの掛け合わせで議論されていました。この背景には、SDGs達成に必要な年間4兆ドルの資金ギャップのうち、エネルギー転換だけで2.2兆ドル(全体の半分以上)が必要ということがあります。この巨大な資金需要にどうAVPNが貢献できるか、という観点で、気候変動を他の社会課題と統合的に解決するアプローチが大事になってきます。
- AVPNとPrudence Foundationが作成したレポートUnlocking Capital for Climate x Healthでは、気候変動と健康分野での資金ギャップを埋めるためのツールキットが提案されています。
- 会場で会った、中国のSEE Conservation(Society of Entrepreneurs and Ecology Conservation)は、企業のメンバーシップによる環境保護NGO/財団を運営し、そのモデルを他国展開するためPan Pacific Conservation Foundationを新設したそうです。SEEについては、SSIR(Stanford Social Innovation Review)にも記事が出ていて、非常に興味深いです。
- 気候変動対応が遅れがちな日本にとって非常に参考になる事例が多くあると思いました。気候変動をそれだけの課題として捉えるのではなく、貧困、ヘルス、ジェンダー、地方経済などとの密接な関係や影響を具体的に取り上げることで、ステークホルダーやコミットメントの広がりが生まれやすいのではと考えました。
SEE Conservationや中国で慈善活動する方々と
3. フィランソロピーとインパクト投資の区切りと連続性、組み合わせ
- フィランソロピーとインパクト投資には、それぞれの役割があり、協力しあおうとしている本ネットワークならではの雰囲気を感じました。Day1のアジェンダがフィランソロピー寄りで、Day2がインパクト投資寄りであることからもそれが伺えます。
- 両者を組み合わせた「ブレンディッドファイナンス」は、コンセプトとしては新しくはないですが、具体的な事例を生み出し続けるところへの挑戦は続いているという理解をしました。
- 興味深かったのは、Social FinanceがGoogleと行っているGoogle Career Certificates Fundでした。労働力ミスマッチや所得格差の課題に対して、低所得層をデジタル人材として育成し、就職できれば返済するという「バランスシートキャピタル」と「フィランソロピー」を組み合わせたモデル。助成金だけではないからこその、ステークホルダー間のコミットメントや持続可能性、受益者から貢献者へという転換を組み込もうとしているのがいいなと思いました。
4. アウトカムベース、システムチェンジへの挑戦
- ImpactCollab Outcomes Marketplaceのローンチが発表されました。Outcomes Marketplaceは、アウトカムが検証された場合にのみ資金が提供される、資金提供者と活動団体をつなぐ仕組みです。
- アウトカムベースやシステムチェンジの重要性への強調は、カンファレンス全体で見られますが、これについては下記のTakeawayで少しメモします。
逆に、今回見えにくかった視点
SDGs達成に向けてのマクロ視点から来る気候変動や資金ギャップへのフォーカスもあり、エイジングやジェンダー関連のセッションは予想より少なく、また個々の地道で重要な活動よりもスケーラブルなソリューションに焦点が当たる傾向が見られました。これは大きなグローバルカンファレンスの特性でもありますが、現場レベルの活動の重要性も忘れてはならないと感じました。
カンファレンスの雰囲気
ネットワーキングに大きな価値:
3日間にわたり100以上のセッションがありますが、ネットワーキングを重視している設計です。セッションに座ってばかりではなくて、セッション会場以外にも広大な会場スペースがあり、そこでネットワーキングができるのが好きです。カンファレンスのアプリで、他の参加者やスピーカーにつながり、ミーティング依頼ができる機能もありがたいです。ネットワーキングで皆が過ごすことを想定しているのか、ブレイクアウトセッションは部屋のキャパシティが足りず、人があふれていました。
言語対応:
セッションの主言語は英語で、ごくたまに広東語のスピーカーがいました。多言語のアジアなので、同時翻訳アプリ(Kudo)がカンファレンスで推奨されていたが、会場での接続・反応がいまいちで、World in YouでWorld Summit Award(WSA)に推薦しグローバル受賞したYYProbeを使ったところ、反応速度よく、広東語や普通語(中国)を日本語訳してくれました!
YYProbeで広東語から日本語へリアルタイム翻訳
日本からの参加者での交流会。AVPN Japanの皆さまありがとうございます!
World in Youのクロスボーダー・ラーニングジャーニーでご一緒した須藤奈応さん、大島由起雄さんとも再会!
Takeaway
文脈をつなぐことの大事さ:
今回のカンファレンス参加を通じて、私自身が最も感じたのは、文脈をつなぐことの重要性です。
資金提供者と活動団体は、それぞれ異なる景色を見て、異なる文脈に身を置いています。でも、お互いに協力するときに、リソースやり取り時ふくめて、互いの文脈を理解しあうことは非常に大事です。特に、誰を説得せねばならないかという力学の中で、団体が資金提供者の置かれている文脈にあわせることが、短期の資金調達にはつながります。
しかし、資金提供者が活動団体の文脈を知っていくことも本当に大事であり、そういう意味では、今回ファミリー財団がマングローブ林の保全プロジェクトに直接関わり、ステークホルダー間の利害対立や調整の複雑さを実感する事例が紹介されていましたが、こういう動きや情報共有の意義は大きいと思いました。活動団体側も、資金提供者におもねるのではなく、「現場はこうなのだ、ここが必要なのだ」というコミュニケーションを大切していけるといいです。
そうなったときに、アウトカムベースのファンドも良い面はもちろんありますが、「結果だしてくれればお金出すよ」というスタンスが助長され過ぎると、現場の苦労やプロセスの価値が見落とされがちです。
結局生み出すまでのプロセスが大変だからソーシャルセクターなのであって、そこの意義と困難さ、そこに注がれるエネルギーが適切に伝わらなければ、搾取されるだけです。
だから、搾取に加担しないためにも、私たちWorld in Youのような存在は、両方の文脈に気を配れるかどうか、ということが本当に大事であるし、大事にしていきたい。
今回のようなカンファレンスや学会に出ることの目的とは、ネットワーキングやインプットももちろんあるが、それぞれの場を主催しているアクターやそこの集まりが、どんなナラティブで動こうとしているのかを、覗くことができる点です。
ネットワーキングについても、活動に役立つつながりという意味では、たとえば30人話してloose networkが15人、積極的に短期でつながる人が数名、というようなイメージですが、文脈を理解するという意味では30人それぞれとのお話が貴重なインサイトです。
来年のAVPN Global Conferenceは8月にインド・ニューデリーで開催予定とのことです。アジアから世界へ向けた社会的インパクト創出の動きが、ますます加速していくとよいですね。World in Youも、日本と海外をつなぐ架け橋として貢献していきたいと思います。
最後に来年の開催をアナウンス